『第四全地公会規則』



ハルキドン第四全地公会規則

第一條 諸聖父の各公会に於て今に至るまで述べたる規則は我等遵守するを至當と公認せり。

第二條 若し主教金銀の為に按手を行ひ不可賣の恩寵を化して賣物と為し金銀の為に主教或は「ホレエピスコプ」或は司祭或は輔祭或は其の他凡そ教衆に属する者を立て又は金銀の為に主計(エコノム)或は「エクディク」或は「パラモナリイ」若くは凡て嫌悪すべき利慾の為に人を教会の職に登庸し而して此事を行ひたるを罪せられたるときは其者は自己の職位を褫奪せらる可く又彼等に立られたる者は決して其の買ひ得たる所の按手若くは登庸を利用すべからず乃ち金銀を以て得たる所の位若くは職を褫奪せらる可し。又斯く可悪且不法なるの利慾に媒介する者あるに於ては其者若し教衆の者なれば其の位を除黜せらる可し俗人若くは修士なれば「アナフェマ」に附せらる可し。

 「エクディク」訳すれば弁護者なり。其職は教会の事に由りて官長の前及び裁判に於て窮人及び寃罪を蒙りて困難する者の為に代訴するにありき。
 「パラモナリイ」訳すれば監守者なり。其の職は常に聖堂に居りて来拝者を守護し其便を図るにありき今「ポノマリ」と称するもの之が略語なり。

第三條 聖公会は教衆に属する者にして可憎貪欲の為に他人の財産を抵當に取り俗事を営みて神の務めを等閑にし俗人の家を歴遊して利慾の為に財産の依托を受くる者ありと聞く。是故に聖大公会議定せしこと左の如し以後主教或は教衆或は修士は財産を抵当に取り並に俗事の処置に干與す可らず但し法に由りて幼年者の為に避く可らざるの後見を命ぜられ若くは都府の主教之に教会の事務或は援助なき孤児寡婦の事又は神を恐るるの心を以て特に教会の扶助を施す可き人々の事を慮るべきことを委任する時は此の限りに非ず。若し以後敢て此の制定を犯す者あれば教会の罰に服せらる可し。

第四條 誠心誠意に修道の過活を為す者は相当の尊敬を受く可し。然れども唯外見の為に修道士の衣服を用いて教会及び國家の事を擾乱し擅に市中を徘徊し或は甚しきは自ら己の為に修道院を建設せんことを企つる者あるに由り議定せしこと左の如し凡そ何人たりとも都府主教の許可を得ざれば何處にも修道院若くは祈祷室を建造創立す可らず。各市府及び各地に於て修道の業を修むる者は主教に従属し常に其の隠遁したる所を離れずして静黙を守り唯持齋祈祷を勉め教会の事にも世俗の事にも干渉す可らず己の修道院を去りて此等の事に千與す可らず唯已むことを得ざるの必要あるに由りて都府の主教に許可せらるる時は此の限りに非らず。凡そ僕は其の主人の許なくんば修道院に受けて修道士と為す可らず。此の我等の制定を破る者は我等之に教会の親與を絶ちて神の名を涜す可らざるを定めたり。但し都府の主教は宜く修道院の事を慮るべきなり。

第五條 一都府より他府に移転する主教或は教衆に関しては諸聖父の制定せし規則全然其の効力を有す可きことを議定せられたり。

第六條 凡そ司祭或は輔祭及び其の他教会の職位には被按手者の任處即ち都府若くは邑村の教会若くは致命者の堂若くは修道院を任定するに非ざれば断じて按手す可らず。聖公会は確定の任處なくして按手せられたる者に関し議定せしこと左の如し其の叙聖は無効の者と為し何處に於ても之に聖務を行ふを許す可らず、以て之を立てたる者を辱かしむ可し。

第七條 一旦教衆或は修士に加へられたる者は軍務或は官職を受く可らずと議定したり、若し敢て之を為せし者悔改して前に神の為に撰びたる職に反帰せざる時は「アナフェマ」に處す可し。

第八條 救濟院修道院及び致命者の堂に在る教衆は諸聖父の傳に従ひ各都府の主教の権下に属して漫りに己の主教の管下を脱す可らず。其の方法の如何を問はず凡そ敢て此の制定を破り己の主教に従属せざる者は若し教衆なれば規則に循ひ罰に服せらる可し修士若くは俗人は教会の親與を絶たる可し。

第九條 若し教衆の者教衆に対して訴訟の事件あれば己の主教を棄てて世俗の裁判所に告訴す可らず。乃ち初め己の主教に由りて其の事件を裁判せらるべく若くはハ共主教の意に由りて両造より選ばれたる者之が裁判を為す可し。之に違反して行ふ者は規則に循ひ罰に服す。若し又教衆たる者己の主教或は他の主教に対して訴訟の事件あれば州公会に於て裁判せらる可し。若し主教或は教衆其州の府主教に対して不満の事あれば大州の「エクザルフ」若くは王城コンスタンティノポリの寶座に告訴し其の前に於て裁判せらる可し。

第十條 教衆は同一時に二都府の教会即ち初め按手せられたるの教会と虚栄を欲するよりして転じたる大教会に属するを許さず。之を為す者は初め按手せられたる本教会に之を送還し唯彼処に於て勤めしむ可し。又一教会より他教会に移転せられたる者は前の教会に属するもの即ち該教会に属する致命者の堂或は救済院或は旅館等に毫も干渉す可らず。此大全地公会の制定の後敢て今禁制せられたる事を行ふ者は聖公会其の位より黜く可きを定めたり。

第十一條 凡そ貧困にして扶施を要求する者には其の貧困を確かめたる上教会の和親状を給して通行せしむ可きを定めたり但し紹介状を與ふ可らず。蓋し紹介状は唯嫌疑ある者に與ふ可きものなり。

第十二條 我等聞く所に依るに教会の規律に反して官権に依頼し官府の令状を以て一州を分割して二と為し是に由て一州に二人の府主教を立てんとする者ありと。是故に聖公会は以後主教たる者決して此の如き事を行ふ可らざるを定めたり。蓋し此の事を企つる者は其位を除黜せらる可し。國王の詔に由りて首府(ミトロポリヤ)の尊称を得たる市府并に其の教会を治理する主教は唯名譽のみを以て満足し、眞の首府(ミトロポリヤ)に属する固有の権利を保全すべし。

第十三條 他の都府に於て知られざるの教衆は其本主教の紹介状を有するに非ざれば決して何の處に於ても聖務を行ふ可らず。

第十四條 或教区(エパルヒヤ)に於て誦経者及び唱歌者に婚配を為すを許すものあり依て聖公会議定せしこと左の如し凡そ彼等に他宗の女を娶るを許す可らず既に此の如き婚配に由りて生れ曾て異端者に由りて領洗せし子は之を公教会の親與に入る可し其の未だ領洗せざる者は異端者に由りて之に領洗せしむ可らず異端者若くはイウクデヤ人若くは異邦人と婚配をも為さしむ可らず但し正教人と配偶する者正教に転ずるを約する時は此の限りに非ず。此聖公会の制定に違背する者は規則に循ひ懲罰(エピティミヤ)に服す可し。

第十五條 女輔祭は四十歳以下に非ざる女にして且精確なる試験の後に之を立つ可し。若し按手を受け暫時勤務を為して後婚配を為す者あれば神恩を辱かしめたる者として之と配偶したる者と偕に「アナフェマ」に處せらる可し。

第十六條 主神に己を献じたる處女及び修道士には婚配を為すを許さず。若し之を行ふ者あれば教会の親與を絶たる可し。但し我等本地の主教は此の如き者に慈憐を施すの全権を有す可きを定めたり。

第十七條 各教区(エパルヒヤ)に於て邑村或は郭外に在るの司祭管区は変ずることなく其の之れを管理する主教の権下に従属す可し就中三十年の間無論にして其の管区を管轄治理せし者に対して然りとす。若し、三十年を過ぎざるに或は其の管区に関して争論起るあらば自ら侮辱せられたりと為す者は州公会の前に其事を訴ふるを許す可し。若し又己の府主教に侮辱せられたりと為す者は前に云ひし如く大州の「エクザルフ」若くはコンスタンティノポリの寶座の前に於て裁判せらる可し。然れども若し王の権を以て新たに都府を置かれたる者若くは以後置かるる時に教会管区の区画は國家及び土地の等順に従ふ可し。

第十八條 悪謀を企て若くは徒党を作ることは犯罪として國法にても全く禁ぜらる。然らば矧んや神の教会に於ては宜しく之を禁制して此の如きことあらしむるを致す可らず。故に若し教衆の者或は修道士たる者亙に誓約を為し若くは徒党を作り若くは主教或は己の同僚を陥れたること露顕する時は全く其の位を除黜せらる可し。

第十九條 我等聞く所に依るに諸州に於て規則を以て制定せられたる主教の公会を為さず之に由りて教会の修正す可き数多の事件を顧みざるものありと。是故に聖公会は諸聖父の規則に準拠して議定せしこと左の如し各州に於て諸主教一年に二回首府の主教の定めたる所に集会し凡そ露顕する所の事を修正す可し。若し主教己の市府に在り且健康にして凡ひ緊要不可避の事業あるに非ずして公会に来らざる時は兄弟の愛を以て之を苦諫す可し。

第二十條 我等已に制定せし如く一教会に定められたるの教衆は他府の教会に転ずるを許さず其の初め勤務を命ぜられたる教会を以て満足せざる可 か[らず。*] 唯己の生國を失ひ不得已に由りて他教会に転ぜし者は此の限りに非ず。若し主教此の制定の後他主教に属するの教衆を受くる時は我等受けられたる者并に受けたる者も其の移転せし教衆が己の教会に帰還するに至るまで教会の親與を絶たる可き者と裁定せり。

   [*]校正・入力者注・・・原本に欠落あり。[]内は校正入力者の補遺

第二十一條 教衆若くは俗人の主教或は教衆に対する告訴は直に審査せずして受理す可らず乃ち預め彼等の事に関する公衆の意見を探る可し。

第二十二條 既に古時の規則(使徒規則四十條)にても禁ぜられたる如く教衆は己の主教の死後之れに属する物品を竊取するを許さず。之を為す者は其位を除黜せらるるの危難に服せらる可し。

第二十三條 聖公会聞く所に依るに教衆及び修道者にして己の主教より何等の委託をも受けず甚しきは教会の親與を絶たれながら王城コンスタンティノポリに至り久しく彼処に居住して紛擾を生じ教会の規順を破り甚しきは人家を擾乱する者ありと。依りて聖公会議定せしこと左の如。第一コンスタンティノポリの至聖なる教会の「エクディク」を以て之に王城を去る可きを説諭すべし。若し尚ほ恬然として此の事を行ふ時は同じく「エクディク」を以て強て王城を去らしめ其本地に送還す可し。

第二十四條 曾て主教の許に由りて成聖せられたる修道院は永久に修道院と為し之に属する物品は保存して以後之を俗人の住家と為す可らず。之を為すを許す者は規則に循ひ罰に服す可し。

第二十五條 我等聞く所に依るに府主教にして其の委任せられたる被牧者のことを慮らずして主教の叙任を遷延する者ありと、依りて聖公会議定せしこと左の如し主教の叙任は三ヶ月の間に行ふ可し但し不可避の事故あるに由りて其時期を遷延するは此の限りに非ず之を行はざる者は教会の懲罰に服す而して孤立する教会の収入は其の主計(エコノム)に於て全く之を保管す可し。

第二十六條 我等聞く所に依るに或教会に於て主教は主計(エコノム)に依らずして教会の所有物を管理する者ありと依て議定せしこと左の如し凡そ主教を有する教会は其教会の教衆中より主計(エコノム)を任定し之をして其主教の旨に由りて教会の所有物を管理せしむ可し是れ教会財産管理上に必ず証人を立つるを要すると之に由りて教会の所有物を浪費せず神品者に誹謗を来さざらんが為めなり。若し之を行はざる者あれば聖規則に循ひて処分せらる可し。

第二十七條 結親の為に婦女を強奪する者或は強奪者に助力する者若くは可認する者について聖公会議定せしこと左の如し若し教衆なれば其位を除黜し俗人は「アナフェマ」に處す可し。

第二十八條 萬事諸聖父の定規に循ひ并に今誦読せられたる敬虔にして追念すべきフェオドシイの時王城コンスタンティノポリ、新ロマの公会に集会せし一百五十人の最も神に愛せらるる主教等の規則を認定して我等も亦此のコンスタンティノボリ、新ロマの至聖なる教会の特典を碓定す蓋し諸父が舊ロマの寶座に特典を與へたるは其王城たりしを以て至当なりとす。一百五十人の最も神に愛せらるる主教等も此趣意に準拠して新ロマの至聖なる寶座に同等の特典を與へ至当に議せしこと左の如し國王及び大議院(シンクラト)の府たる名譽を得舊都ロマと同等の特典を有するの府は教会の事に於ても之と同じく尊崇せられ其の次に位すべし故に唯ポント、アシヤ及びフラキヤ諸州の府主教并びに此諸州に属する異族民の主教等は前記コンスタンティノポリの至聖なる教会の至聖寶座に由りて立らる可し即ち前記諸州の府主教は各々聖規則にて制定せられたる如く州中の諸主教と相共に教区(エパルヒヤ)を有するの主教を立つ可し。而して前記諸州の府主教は慣例に従ひ合同の選挙及び具申に由り前に云ひし如くコンスタンティノポリの大主教に由りて立らる可し。

第二十九條 主教を司祭の位に貶するは攘聖の罪なり若し之をして主教の行務を為す能はざらしむる正當の事故ある時は司祭の位置にも居る可らず。若し又毫も故なくして己の位を黜けられたる時は主教の位に復せらる可し。

第三十條 今エギペトの最も敬粛なる主教等は公教会の教に反抗せんが為に非らず乃ち唯エギベト州に行はるる慣例に由りて凡そ己の大主教の認可裁定に由らざれば決して此の如き事を行ふ能はずと為して至聖なる大主教レオの書に署名することを遷延し大都アレキサンドリヤの主教の立つに至るまで之を延期せんことを請願す依りて我等之に其の位を保有して王城に止まり大都アレキサンドリヤの大主教の立つに至るまで之に延期を與ふるを以て公義且仁慈の事と認定せり。故に彼等己の位に在りて或は若し能すべくんば保人を立つ可し若しくは誓約を以て嫌疑を排す可し。


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