西日本主教教区・冬季セミナー開催 1月12日
豊橋・聖使徒マトフェイ聖堂重要文化財指定記念講演
   ダニイル府主教座下をお迎えして

感謝祈祷と聖像下賜

 今年度「冬季セミナー」は一月十二日(祝)、豊橋ハリストス正教会・聖使徒マトフェイ聖堂が国から重要文化財に指定されたことを記念し、豊橋正教会を会場として開催されました。日本正教会聖堂の重要文化財指定は、東京・函館に次ぎ三件目。午前中は、十一時から聖堂でダニイル府主教座下司祷による感謝祈祷(聖使徒福音者マトフェイに因り頼む祈祷)を献じ、府主教座下から次のお言葉と、記念の生神女聖像が豊橋正教会に下賜されました。
 「かつて司祭として奉職し祈祷を献じていたこの聖堂が国の重要文化文化財に指定されたことは、この上ない喜びである。文化財はこの世の価値観に基づいた物質的基準に基づいたものではあるが、本来
Culture(カルチャー、文化)は、『耕す』ことを語源としている。心を『耕し』、精神的に豊な実りをもたらすことこそ本来の『文化』であり、それは信仰生活に通じるものである。聖堂が重要文化財に指定されたことを励みとしてこの聖堂に集って祈りを献げ、主の恩寵の内に教会活動が続けられることを希望し、豊橋教会のさらなる発展を祈念している。(以上、要旨)」

記念講演「聖マトフェイ聖堂の建築的魅力」

 信徒会館での昼食をはさみ、午後は西澤泰彦准教授(名古屋大学大学院環境学研究科)による「豊橋ハリストス正教会聖堂の建築的魅力」を主題とした講演を頂きました。西澤准教授は、建築史、技術史を専門分野とする研究者で、今回の重要文化財指定に向け豊橋市が組織した文化財調査委員会で中心的役割を担い、「愛知県指定有形文化財豊橋ハリストス正教会聖使徒福音者馬太聖堂建築調査報告書」(豊橋市教育委員会美術博物館 、2007 )を著して、重要文化財指定に尽力下さいました。先生ご自身が豊橋出身でもあられます。
 西澤先生は、豊橋聖マトフェイ聖堂の『特徴』を「木造であること」とし、歴史資料や調査データを基にした詳細な分析を、写真や図版をコンピューターのプロジェクターで投影しながら建築の専門家ではない聴講者にも分かり易くその意味を解説して行って下さいました。「煉瓦や石による組積造の建造物として発展してきた教会建築を木造でいかに表現するか」という建築上の課題を、豊橋聖マトフェイ聖堂設計者である河村伊蔵輔祭が、地震国日本にあっての「耐久性確保」を含め、試行錯誤して様々な課題を『克服』して行った課程と成果がこの聖堂に凝縮されていることがこの聖堂の建築的魅力であること。そして、聖堂建築調査報告書では、「ハリストス正教会の木造建築聖堂建築として日本の頂点に立つ存在であったといえよう」として、重要文化財指定の価値があると訴えたのだと明かされました。
 良く通る声でにこやかにお話し下さる講演は予定時間の五十分を大幅に越え九十分に渡り、休憩を挟んでの質疑応答にも丁寧にお答え下さいました。講演にも臨席されたダニイル府主教座下から西澤准教授に、講演と重要文化財指定に向けた尽力に対する謝辞がありました。

教話「聖堂内部空間の意味するもの」

 西澤准教授講演に続いて、イオアン小野貞治司祭(京都)が、「正教会の聖堂その内部空間の意味するもの」と題した教話を行いました。小野司祭は、「聖堂は、『神との交わり』のためにあり、それぞれの聖堂は至聖所の『宝座(ほうざ)』を通して天上のハリストスの玉座と属神的(霊的)に結びついている。宝座は、『玉座』であると共に主の晩餐の『食卓』でもある。諸外国正教会聖堂で壁一面に描かれるモザイクやフレスコ画は、天上の教会と地上の教会の一致を参祷者が身をもって感じるための大きな助けとなっている」として、カラー図版やイラスト資料を用いながらお話しくださいました。

 他教区・他教派信徒を含め各地から九十名に及ぶ参加者を得たセミナーは、聖堂の重要文化財指定に対する関心の高さが伺えました。会場のお世話を下さった豊橋正教会の皆様、ありがとうございました。(イオアン小野記)