西日本主教教区 冬季セミナー(大阪)
「正教会の修道性」
豊橋教会イサイヤ酒井神父、修道司祭ゲラシム神父講演に100名の聴衆
2月12日(月・振休)に、大阪教会を会場に恒例の西日本主教教区の冬季セミナーが開催されました。今年のテーマは「ロシア正教会の修道性」。「修道」の世界に関心をよせる方は非常に多く、約100名の参加者が集まりました。午前中は、開会祈祷として、大阪生神女庇護聖堂にて、亜使徒聖ニコライのモレーベンを献じました(写真左)。今回講師としてご来阪いただいたゲラシム神父様が司祷なさいました。その口から流れ出た美しい声の日本語の祈りに、参祷者は心をふるわせました。
祈祷後、ぎっしりと人で埋め尽くされた会館ホールにて、豊橋教会のイサイヤ酒井以明神父様より「正教会の修道の起こり」と題して、およそ十一世紀頃までの修道の歴史をうかがいました(写真左下)。詳しくまとめられた資料をもとに、旧約時代のネフィリムやナジル人から始まり、迫害時代を経て、隠遁修道、集団修道、ラウラ修道など、どのように正教会の修道性が発展していったかが解説されました。
「修道院が最も精彩ある姿を示したのはイコノクラスム(聖像破壊運動)の時代であった。8世紀後半期における修道院への迫害とそれに対する修道士の抵抗、特にこの抵抗運動で主役を演じるコンスタンティノープルのストゥディオ修道院の院長テオドロスの活躍と彼が行った修道院の改革は正教会の修道制の再生の泉となった」という説明は含蓄のある話でした。
また、時おり混ぜられるユーモラスな言葉によって、雲の上の話ではなく、身近な話題として「修道」を聞くことができました。その中でも特に「皆さんも一度山に籠もってみませんか。その大変さが身にしみてわかると思います」という言葉が印象的でした。
昼食をとって午後からは、ロシアの聖セルギイ修道院から日本正教会のために来日なさっている修道司祭ゲラシム・シェフツォフ神父様の講話がありました。通訳はロシア人で東京に住んでおられるゲオルギイ・トロイツキー兄でした。
最初に松島神父様からゲラシム神父様の紹介がなされ、大学では地質学を専門に学ばれたということでした。アカデミヤ(神学院)在学中に修道輔祭になられ、卒業直前に修道司祭に叙聖され、モスクワのティーホン神学大学で教会史を教えておられました。小さい頃から日本に関心をよせられ、ニコライの聖人伝を読んで、いつか日本に行きたいという夢をもっておられたそうです。
ゲラシム神父様は、「ロシアの修道性の道」と題して、ロシアにおける修道の歴史をお話しくださいました。
最初に、「修道とは何か」について、階梯者イオアンの言葉を引用されました。
「修道士は、肉体的な体を持っていますが、肉体のない霊的な存在(天使)の状態に近づこうとする者です。修道士はいつでもどこでも、何をしても、主の言葉や掟に従います。修道士は体をきれいにし、口を潔くし、精神を覚ます者です。修道士は寝ていても、起きていても、いつも心を痛め苦しみながら、死を覚え、死について考える者です。」
こうした修道性は、ロシア人に受け入れられやすく、ロシアにおいて非常に広く普及しました。そしてキエフのペチェルスキー大修道院の成立について、イラリオン府主教、克肖アントニイ、克肖フェオドシイたちが活躍したことが紹介されました。
次に、十四、十五世紀のロシアの修道の形、十六、十七世紀の歴史的推移をお話しされました。
また修道士の三つの段階、「リヤサフォル」、「小スヒマ」「大スヒマ」について詳しく説明していただきました。「リヤサフォル」とは修道請願はまだ行わないけども道徳上は修道士と同じで修道院規則を守る責任があり、「リヤサ」を身にまとうのでこの言葉があるそうです。「小スヒマ」の「スヒマ」とは、内面的な悔い改めを現す外面的な従順という意味があるということです。「大スヒマ修道士(スヒムニク)」はかなり厳しい斎(ものいみ)や祈祷の生活を送るそうです。
続いて十八世紀のピョートル大帝の教会改革と「フィロカリア」について、十九世紀の卓越した聖人であるサーロフの聖セラフィムについてお話しくださいました。特に聖セラフィムが祈りと斎と静寂を守り、厳格な隠遁生活を送ったこと、しかし、その後、「長老」として人々に正教の心を教えたことなどが強調されました。
「聖セラフィムは巡礼者に、常に主を覚え、お祈りを捧げるように教えていました。彼が特に強調していたのは心の祈りの大切さです。聖セラフィムは、心の祈りによって自分の精神を落ち着かせ、心の目を覚ますことができると言っていました。歩いている時、座っている時、働いている時、教会での礼拝の時、いつでも主の祈りを心の中で繰り返すことが大事です。」
ゲラシム神父様はこのように、祈りの大切さを教えて下さいました。
最後に現代のロシアにおける修道院について「二〇〇七年現在、ロシアを含む旧ソ連の領土には七百十三の修道院があります。聖山アトスとの交流が再開し、神学的な書物がたくさん出版されています。…これから修道性の道を歩み始める日本の信者の中から、新しい正教会の指導者が現れるようお祈り申し上げます。」と締めくくられました。
地図や写真やイコンなどパソコンに入力した資料をビデオプロジェクターで壁に投影しながらのお話でしたので、とてもわかりやすく、あっという間に時間がすぎていきました。
質疑応答にも簡潔にお答えくださり、修道生活を実践しておられる神父様の説得力のあるお話に、熱心に耳を傾けた二時間半でした。
なお、翌日、ゲラシム神父様は、大阪泉大津のロシア人墓地に赴かれ、リティヤを献じられました。