受難週
聖大月曜日~水曜日
聖大月曜日の早課
六聖詠の後に「アリルイヤ」を第八調に据りて、諧和の調を以て大聲に歌ふ。其後讚詞を同じく諧和の調を以て大聲に緩唱す。第八調。
視よ、新郎は夜半に來る、僕の醒むるを見ば、僕は福なり、其倦むを見ば、當らざる者なり。我が靈よ、慎め、眠りて惰る勿れ、恐らくは死に付されて、國の外に閉されん。疾く興きて呼べ、聖、聖、聖なる哉神よ、生神女に因りて我等を憐み給え。三次。
次に常例の誦文、拜と共に。
第一の誦文の後に坐誦讚詞、第一調。
當日尊き苦は救を施す光として世に輝く、蓋ハリストスは仁慈に因りて、苦を受けん爲に來り、萬有を其手に保つ者は甘じて木に伸べらる、人を救はん爲
---------------------[聖大月曜日 早課 991頁]---------------------
なり。
光榮、今も、同上。
第二の誦文の後に坐誦讚詞、第一調。
見えざる審判者よ、如何ぞ爾は肉體に見られて、己の苦を以て我等の定罪を定罪して、不法の人人より殺されん爲に往く。故に言よ、我等同心に爾の權柄に讚美讚頌讚榮を奉る。
光榮、今も、同上。
第三の誦文の後に坐誦讚詞、第八調。
我等は當日に於て主の苦の始を尊まん。祭を愛する者よ、來りて、歌を以て迎へん、蓋造成主は往く、ピラトに審判せられて、詰問と、創傷と、十字架とを受けん爲なり。故に僕よりも首を撃たれて、一切を忍び給ふ、人を救はん爲なり。此に因りて我等彼に呼ばん、仁愛なるハリストス神よ、信を以て爾の至浄なる苦に伏拜する者に諸罪の赦しを賜へ。
光榮、今も、同上。
其後マトフェイ福音經の講説の誦讀。并に金口イオアンの枯れたる無花果樹の事の説敎の誦讀。
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次に、「我等に聖福音經を聽くを」マトフェイ福音八十四端、「彼の時イイスス城に返る時飢えたり」超えずして八十八端迄、終は其果を結ぶ民に與へられん。其後第五十聖詠。次に「神よ、爾の民を救ひ」。主憐めよ、十二次。
三歌頌、コスマ師の作。イルモス二次、讚詞十二句に。
附唱、我等の神よ、光榮は爾に歸す、光榮は爾に歸す。(全週間に之を用いる。)畢て後彼「イルモス」を兩詠隊共に歌ふ。
第二調。第一歌頌。
イルモス、己の神聖なる命を以て渉られぬ、濤たつ海を涸らし、イズライリ民を導きて馮せしめし主に歌はん、彼嚴に光榮を顯したればなり。
神の言の降臨は言ひ難し、蓋ハリストスは神にして亦人なり、彼が己の神たるを僭ふとせざることは、僕の貌に在りて其門徒に之を示す、彼嚴に光榮を顯したればなり。
我甘じてアダムの貌を衣たる造成主、神性に富める者は、貧しくなりたるアダムに自ら役せん爲に來り、神性を以て苦に與らざる者は、彼の贖として我が生命を捐てん爲に來れり。
小讚詞、第八調。
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イアコフはイオシフを亡ひて哭けるに、高徳の者は車に坐して、王の如くに敬はれたり。蓋彼の時エギペトの婦の慾に服役せずして、人の心を知りて不朽の冠を賜ふ者より榮せられたり。
同讚詞
我等は今唏に唏を加へ、涙を流してイアコフと偕にイオシフの爲に泣かん。
彼は常に記憶すべき貞潔なる者なり、體にて役せられ、靈を服役せざる者として守り、遂に全エギペトを宰る者と爲れり。蓋神は其諸僕に不朽の冠を賜ふ。
第八歌頌
イルモス、大く燃されたる烈しき火は敬虔なる少者の靈に合ふ玷なき體に懼れて退けり、盛なる焰の衰へし時、息めざる歌は歌はれたり、悉くの造物は主を歌ひて、萬世に揚げよ。
救世主は苦に往く時其友に言ふ、若し爾等我の誡を守らば、其時皆爾等が我の門徒たるを知らん。爾等互に、及び衆人に和平を有ち、又謙卑の思を以て高に登れ、且我の主なるを識りて、歌ひて萬世に讚め揚げよ。
兄弟の中に主たることは爾等に屬せざる異邦の習にして、我の分に非ず、我の所轄
---------------------[聖大月曜日 早課 994頁]---------------------
は自由の望なり。故に爾等の中他人より尊からんと欲する者は衆人の下たるべし、且我の主なるを識りて、歌ひて萬世に讚め揚げよ。
「我等主を讚め、崇め」。
并に復イルモス。「ヘルワィムより尊く」を歌はず。
第九歌頌
イルモス、ハリストスよ、爾を生みし生神女を爾大なる者と爲せり、蓋吾が造物主よ、爾は我等の罪過を贖はん爲に、我等と均しき肉體を彼より取り給へり、我等萬族彼を讚美して、爾を崇め讚む。
萬有の睿智よ、爾は使徒等に預言して曰へり、諸慾の汚を悉く棄てて、神の國に適ふ睿明の知識を受けよ、然らば爾等其内に光榮を獲て、日よりも輝かん。』
主よ、爾は己の門徒に言へり。我を見て、思を高きに騖する勿れ、乃謙卑に順へ。我が飮む所の爵は、爾等之を飮め、然せぱ我と偕に父の國に在りて光榮を獲ん。
次にイルモス、「ハリストスよ、爾を生みし生神女を」。并に伏拜。
差遣詞を諧和の調を以て緩唱すること三次。唱歌者堂中に立ちて之を歌ひ、詠隊之を復す。大木曜日に至るまで此の差遣詞を歌ふ。
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我が救世主よ、我爾の飾りたる宮を見れども、之に入らん爲に衣を有たず。光を施す者よ、我が靈の衣を照して、我を救ひ給へ。
「凡そ呼吸ある者」に自調の讚頌、四句に。第一調。
主は自由の苦に往く時、途中使徒等に謂へり、視よ、我等イエルサリムに上る、人の子は付されん、彼を指して録されしが如しと。來りて、我等も潔められたる思を以て彼と偕に行き、偕に十字架に釘せられ、彼の爲に世上の逸樂に死なん。然らば我等彼と偕に復活きて、彼の呼ぶを聞かん、我既に苦を受けん爲に地上のイエルサリムに上るに非ず、乃我が父及び爾等の父、我が神及び爾等の神に升り、爾等をも偕に天上のイエリサリム、天の國に擧げん。二次。
第五調、信者よ、我等ハリストス神の救を施す苦に至りて、彼の言ひ難き忍耐を讚榮せん、彼が至善にして人を愛する主なるに因りて、其慈憐を以て罪に殺されたる我等をも偕に起さん爲なり。二次。
光榮、今も、同調、主よ、爾苦に往く時爾の門徒を堅め、獨彼等を招きて曰へり、何ぞ我が前に爾等に言ひし我の言を記念せざる、凡そ預言者がイエリサリムの中に非ずして殺さるることは録せるなし。今や我が爾等に言ひし時届れり、蓋視よ、我罪人等の手に付されて辱しめられん、彼等我を十字架に釘し、痙に付し、死者
---------------------[聖大月曜日 早課 996頁]---------------------
の如く忌はしき者とせん。然れども勇めよ、蓋我第三日に起きて、信者の喜且永生と爲らん。
挿句の自調の讚頌、第五調。
主よ、ゼワェデイの子の母は爾が定制の言ひ難き奥義に堪へずして、爾に向ひて、其二子に現世の國の尊貴を賜はんことを求めたり。然れども爾は此に代へて、爾の友に死の爵を飮まんことを約せり、彼等に先だちて爾自ら此の爵を諸罪の潔として飮まんと言へり。故に我等爾に籲ぶ、我が靈の救よ、光榮は爾に歸す。
句、「主よ、夙に爾の憐を以て我等に飽かしめよ」。
主よ、爾は門徒に最完全なる事を謀るべきを敎へて、下なる者の上に權を執ることに於て異邦民に效ふべからざるを云へり、爾等我の門徒に於ては斯くある可からず、蓋我は甘じて貧しき者と爲れり。爾等の中に首たる者は衆人の僕と爲るべし、司る者は司らるる者の如く、尊き者は卑き者の如くなるべし。蓋我親ら貧しくなりたるアダムに役して、我が命を與へて、光榮は爾に歸すと我に呼ぶ衆くの者の贖を爲さん爲に來れり。
句、「願はくは主吾が神の惠は我等に在らん」。
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第八調、兄弟よ、果を結ばざるに因りて枯れたる無花果樹の懲戒を懼れて、我等悔改に合ふ果を結びて、我等に大なる憐を賜ふハリストスに獻らん。
光榮、今も、同調、蛇は第二のエワとしてエギペトの婦を獲て、諛の言を以てイオシフを跌かしめんと務めたり、然れども彼は衣を遺して罪を避け、裸體にして耻ぢざりき、始に造られたる人の違反の前の如し。ハリストスよ、彼の祈禱に因りて我等を憐み給へ。
次に「至上音よ、主を讚榮し」。其他常例の如し。并に大小拜。
發放詞、「我等の救の爲に、自由の苦に往き給ふ主ハリストス我等の眞の神は」。
此の發放詞は火曜日及び水曜日にも誦す。
【注意】
知るべし。大週間には第一時課及び第九時課に「カフィズマ」を誦せず、唯常例の如く三聖詠のみを誦す。第三及び第六時課には「カフィズマ」を誦す。又月曜日、火曜日及び水曜日には四福音經を分誦す。
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朝の定刻に及びて常例の如く鐘を鳴らし、衆堂に集りて。第三時課を誦す、「カフィズマ」と共に、并に常例の拜を爲す。次に讚詞、「第三時に爾の至聖神を爾の使徒に」、及び三伏拜。生神女讚詞、「生神女よ、爾は實の葡萄の枝」。「カフィズマ」を誦する
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時、堂中に飾りたる經案及び火を點じたる燭臺二基を設け、案上に聖四福音經を安置す。司祭は福音經、全堂、及び衆の前に爐儀を行ふ。第六時課には唯福音經の前に行ふ。第九時課には福音經、全堂、及び衆の前に行ふ。斯くして生神女讚詞の後に福音經を讀む。讀み畢りて誦經誦す、「主は日日に崇め讚めらる」、其他。本日の小讚詞を誦す、「イアコフはイオシフを亡ひて哭けるに」。并に常例の大小拜。其後第六時課を始む、「來れ、我等の王」、三次、及び常例の聖詠。順序の「カフィズマ」。次に讚詞、「アダムが地堂に犯しし罪を第六日の第六時」、并に三伏拜。生神女讚詞、「生神童貞女よ、我等夥しき罪ありて」。
次に預言の讚詞、第六調。
世界の救主よ、我等傷める靈を以て爾に伏拜して、爾に祈る、蓋爾は痛悔する者の神なり。
光榮、今も、同上。
提綱、第百二十五聖詠、第四調、主はシオンの擄を返せり。句、其時我等の口は樂に滿ちたり。
イエゼキイリの預言書の讀。第一章。
第三十年四月の五日に、我ホワル河の邊に、俘囚の中に在りし時、天開けて、我
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神の異象を見たり。イオアキム王の擄にせられしより第五年の其月の五日に、ハルデヤ人の地に、ホワル河の邊に於て、主の言はワゥジヤの子司祭イエゼキイリに臨めり、主の手彼處に彼の上に在りき。我見しに、視よ、烈しき風北より來れるに、大なる雲及び燃ゆる火の團あり、光明之を還れり、其中よりして、火の中より發する會め鎔かしたる金の光の如き者出でたり、又其中より四の生物の式見えたり、其狀是くの如し、彼等の象は人に似たり、各四の面あり、各四の翼あり、其足は直なる足、其足の跖は犢の足の跖の如くにして、磨ける銅の如く光れり、其翼は輕し。翼の下に、其四旁に、人の手あり、斯の四の者には皆面あり、翼あり、其翼は互に相連れり、其往く時轉らずして、各其面の向ふ所に往けり。其面の式は、四の者皆右の旁には人の面及び獅の面あり、左の旁には四の者皆牛の面あり、亦四の者皆鷲の面あり、其面と其翼とは、上に於て分れ、各二の翼互に相連り、二は其身を蔽へり。彼等各其面の向ふ所に往き、神の欲する所には、彼等彼處に往けり、其往く時轉らざりき。其生物の狀は爇くる炭の如く、燃ゆる燈の如し、火は生物の間に往返し、火輝きて、其中より電出でたり。生物は馳せて往來す、電の閃くが如し。我生物を見しに、視よ、地上に、生物の旁に、其四の面の前に、各一の輪あり。其輪の狀と工作とは淡黄玉の如し、四の者の
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式は皆同じ、其狀と工作とは、輪の中に輪のあるが如し。其行く時は四方に行けり、行く時轉らざりき。其輪輞は高くして畏るべし、輪輞には四ながら皆偏く目あり。生物の行く時は、輪其旁に行き、生物地より擧る時は、輪も亦擧れり。神の往かんと欲する所には、彼等も彼に往けり、神何に往くとも、輪も彼等に並びて擧れり、蓋生物の神は輪の中に在りき。
提綱、第百二十六聖詠、第四調、若し主家を造らずば、造る者徒に勞す。句、若し主城を守らずば、守る者徒に儆醒す。
次に福音經の誦讀、上述の如し。畢りて後、「主よ、願はくは爾の慈憐は速に我等を迎へん」。聖三祝文、拜と共に。「天に在す」の後に本日の小讚詞。主憐めよ、四十次。其他常例の如し、并に發放詞。
【注意】
知るべし。福音經はマトフェイ、マルコ、及びルカのは全書を讀み、イオアンのは聖受難の始まで、卽主は其門徒に謂へり、今人の子は榮せられたり、に至りて止まる。之を月火水の三曜日に讀みて、水曜日の第九時課に終る。ルカの福音經は三分して讀み、其他は二分す、共に九分なり。
第九時課には三日共に「カフィズマ」の誦文なし、前に記ししが如し。卽三聖詠を讀みて後に讚詞を歌ふ、「第九時に我等の爲に身にて死を嘗めしハリストス」。
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光榮、今も、「我等の爲に童貞女より生れ」。四福音の誦讀あり。畢りて後、誦經誦す。「爾の名に因りて我等を終まで棄つる勿れ」。聖三祝文、拜と共に。「天に在す」の後に本日の小讚詞。「主よ、爾の國に於て我等を憶ひ給へ」。其他の式は常例の如し。畢りて晩課を併せ誦す。
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聖大月曜日の晩課
首誦聖詠の後に常例の「カフィズマ」の誦文、「我我が憂の中に主に呼びしに」。「主よ、爾に籲ぶ」に十句を立てて、本日の自調の讚頌を歌ふ、四章は各二次、二章は一次。第一調。
主は自由の苦に往く時、途中使徒等に謂へり、視よ、我等イエリサリムに上る、人の子は付されん、彼を指して録されしが如しと。來りて、我等も潔められたる思を以て彼と偕に行き、偕に十字架に釘せられ、彼の爲に世上の逸樂に死なん。然らば我等彼と偕に復活きて、彼の呼ぶを聞かん、我既に苦を受けん爲に地上のイエルサリムに
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上るに非ず、乃我が父及び爾等の父、我が神及び爾等の神に升り、爾等をも偕に天上のイエリサリム、天の國に擧げん。二次。
第五調、信者よ我等ハリストス神の救を施す苦に至りて、彼の言ひ難き忍耐を讚榮せん、彼が至善にして人を愛する主なるに因りて、其慈憐を以て罪に殺されたる我等をも偕に起さん爲なり。二次。
主よ、爾苦に往く時爾の門徒を堅め、獨彼等を招きて曰へり、何ぞ我が前に爾等に言ひし我の言を記念せざる、凡そ預言者がイエルサリムの中に非ずして殺さるることは録せるなし、今や我が爾等に言ひし時届れり、蓋視よ、我罪人等の手に付されて辱しめられん、彼等我を十字架に釘し、瘞に付し、死者の如く忌はしき者とせん。然れども勇めよ、蓋我第三日に起きて、信者の喜び且永生と爲らん。二次。
主よ、ゼワェデイの子の母は爾が定制の言ひ難き奥義に堪へずして爾に向ひて、其二子に現世の國の尊貴を賜はんことを求めたり。然れども爾は此に代へて爾の友に死の爵を飮まんことを約せり、彼等に先だちて爾自から此の爵を諸罪の潔として飮まんと言へり。故に我等爾に籲ぶ、我が靈の救よ、光榮は爾に歸す。二次。
---------------------[聖大月曜日 晩課 1003頁]---------------------
主よ、爾は門徒に最完全なる事を謀るべきを敎えて、下なる者に上に權を執ることに於て異邦民に效ふべからざるを云へり、爾等我の門徒に於ては斯くある可からず、蓋我は甘んじて貧しき者と爲れり。爾等の中に首たる者は衆人の僕と爲るべし、司る者は司らるる者の如く、尊き者は卑き者の如くなるべし。蓋我親ら貧しくなりたるアダムに役して、我が命を與へて、光榮は爾に歸すと我に呼ぶ衆くの者の贖を爲さん爲に來れり。
第八調、兄弟よ、果を結ばざるに因りて枯れたる無花果樹の懲戒を懼れて、我等悔改に合ふ果を結びて、我等に大なる憐を賜ふハリストスに獻らん。
光榮、今も、同調、蛇は第二のエワとしてエギペトの婦を獲て、諛の言を以てイオシフを跌かしめんと務めたり、然れども彼は衣を遺して罪を避け、裸體にして耻ぢざりき、始に造られたる人の違反の前の如し。ハリストスよ、彼の祈禱に因りて我等を憐み給へ。
次に福音經捧持の聖入。「穏なる光」。
提綱、第百二十七聖詠、第六調、主はシオンより爾に降福せん、爾在世の諸日イエルサリムの安寧を視ん。句、凡そ主を畏れて、其途を行く者は福なり。
エギペトを出づる記の讀。第一章。
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イズライリの。諸子、其父イアコフと偕にエギペトに入りし者の名は左の如し、各其全家と偕に入りたり、ルワィム、シメオン、レワィイ、イウダ、イッサハル、ザワゥロン、ワェニアミン、ダン、ネファリム、ガド、アシルなり。イオシフは既にエギペトに在りき。イアコフより出でたる者は總て七十五人なり。イオシフと、其兄弟と、當世の人と皆死せり、イズライリの諸子は饒く子を生み、愈増し、愈殖え、太甚しく強くなりて、其地に充つるに至れり。茲にイオシフの事を知らざる新しき王エギペトに起れり、彼其民に謂へり、視よ、イズライリの諸子の族は多數にして、我等よりも強し、來れ、我等巧なる計を以て彼等を待はん、恐らくは彼等益多くなり、戰争の興ることある時は、我等の敵に與し、我等に勝ちて、此の地より出でんと。乃役を督る者を彼等の上に立てて、重き役を以て彼等を疲らせたり。彼等はファラオンの爲に堅固なる邑ビフォ、ラメッシ、及びヲン卽エリオポリを建てたり。然れども愈彼等を窘むるに随ひて、彼等愈増し、愈強くなりて、エギペト人イズライリの諸子を懼るるに至れり。故にエギペト人は嚴しくイズライリの諸子を勞動せしめ、和泥、作甎の苦役、田圃の諸の工作、凡そ酷く彼等に爲さしむる力役を以て彼等の度生を苦しくせり。又エギペト王はエウレイの産婆に謂へり、其一の名はセプフォラ、一の名はフアなり、之に謂へり、爾等エウレイの婦女の爲に收生を
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爲す時は、其産を見て、若し男子ならば之を殺せ、女子ならば之を存せよ。然れども産婆は神を畏れ、エギペト王の彼等に命ぜし如く爲さずして、男子を存せり。エギペト王産婆を召して彼等に謂へり、爾等何ぞ此の事を爲して、男子を存する。産婆ファラオンに謂へり、エウレイの婦はエギペトの婦の如くならず、彼等健にして、産婆の彼等に入らざる先に産み畢るなり。此に縁りて神は産婆に恩を施せり、而して民愈增して甚強くなれり。
提綱、第百二十八聖詠、第六調、我等主の名を以て爾等を祝福す。句、我が幼き時より彼等多く我を攻めたり。
イオフ書の讀。第一章。
アウシティディヤの地に名はイオフと云ふ者ありき、其人無玷、公義、篤實、敬虔にして、凡の惡に遠ざかれり。其生める者は男子七人、女子三人。其家畜は羊七千、駱駝三千、牛五百耦、牝驢馬五百、其僕從甚多し、地上に大なる業を爲せり、此の人は東の人の中に最大なる者たりき。其男子は各己の家に順次に宴を設けて、日日に相集まり、三人の姉妹をも招きて、共に食飮せり。其宴の日の一周する毎に、イオフ使して子を集め、彼等を潔めたり、卽夙に興きて、彼等の數
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に循ひて、彼等の爲に燔祭を獻げ、又一の牛を彼等衆の靈の罪の爲に獻げたり。蓋イオフ曰へり、或は我が諸子は罪を犯し、神に對して其心に惡しき事を念ひしならんと。イオフの爲しし所は恒に此くの如し。一日神の使等來りて主の前に立てるに、ディアワォルも彼等と偕に來れり。主はディアワォルに謂へり、爾何處より來れる。ディアワォル主に答へて曰へり、地を巡り、天下を過ぎて、斯に在り。主はディアワォルに謂へり、爾意を用いて我が僕イオフを觀しか、蓋地上に彼の若き者なし、無玷、篤實、敬虔にして、凡の惡に遠ざかれる人なり。ディアワォル答へて主に謂へり、豈イオフは獲る所なくして神を尊むか、爾は彼及び其家、又其一切の所有の四周に藩籬を設けしに非ずや、其手の業は、爾之を祝し、其家畜は、爾之を地に蕃殖せしめたり。然れども爾の手を伸べて、凡そ彼の有てる物に觸れよ、其時彼豈爾を祝讚せんや。是に於て主はディアワォルに謂へり、視よ、我彼の一切の所有を爾の手に與ふ、唯彼の身に觸るる毋れ。ディアワォル乃主の前より出でたり。
次に「願はくは我が禱は香爐の香の如く」。其後福音經の誦讀、マトフェイ九十八端、「彼の時イイスス橄欖山に坐せるに」。其他先備聖體禮儀の式常例の如し。大火曜日及び大水曜日にも斯くの如く行ふべし。
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先備聖體禮儀を行はざる時は、「主よ、爾に籲ぶ」に讚頌を六句に歌ふ。讚頌第一調。「主は自由の苦に往く時」、二次。「信者よ、我等ハリストス神の救を施す」、二次。「主よ、ゼワェデイの子の母は爾が定制の」、二次。光榮、今も、「主よ、爾苦に往く時爾の門徒を堅め」。其後福音經捧持の聖入、及び「穏なる光」。提綱、喩言、及び福音經の誦讀。次に「主よ、我等を守り、罪なくして此の晩」。聯禱「我等主の前に吾が晩の禱を增し加へん」。挿句には前に記しし讃頌の中、第五調、「主よ、爾は門徒に最完全なる事を」。句、「天に居る者よ、我目を擧げて」。復同讚頌。句、「主よ、我等を憐み」。第八調、「兄弟よ、果を結ばざるに因りて」。光榮、今も、同調、「蛇は第二のエワとして」。次に「主宰よ、今爾の言に循ひて」。其他常例の如し、并に大小拜。最後の聖三祝文、及び「天に在す」の後に、主憐めよ、十二次。祝文、「至聖なる三者、一性の權柄」。「顧はくは主の名は崇め讚められて」。并に發放詞。
火曜日及び水曜日にも此くの如く行ふ、
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---------------------[聖大月曜日 先備聖體禮儀 1008頁]---------------------
聖大月曜日の晩堂大課
晩堂課に三歌頌を歌ふ、クリトのアンドレイ師の作。第八調。
第二歌頌
イルモス、天よ、聽け、我傅へて、童貞女より身を取りて來り給ひしハリストスを歌はん。
ハリストスと偕に橄欖山に往きて、使徒等と同じく奥密にして彼と偕に居らん。
我が謙卑の心よ、ハリストスが先に言ひし磨石の喩の何なるを暁りて、是より醒めよ。
鳴呼吾が靈よ、己を逝世に備へよ、嚴正なる審判者の降臨は邇づく。
生神女讚詞、至淨なる生神童貞女、獨衆に歌はるる者よ、爾の子に爾の諸僕の爲に祈り給へ。
又、同調。
イルモス、見よ、見よ、我は神、昔イズライリ民を引きて紅の海を過らしめ、之を養ひ、之を拯ひ、之をファラオンの苦しき奴隷より釋きたる者なり。
---------------------[聖大月曜日 晩堂大課 1009頁]---------------------
見よ、見よ、我は神、萬有の存在の先、天地の創造の先より一切を知る者なり、全く父に居り、亦全く父を己の衷に有つ者なり
我は言を以て天又地を造れり、蓋父と共に在りき、且言を以て萬物を持つ。我は父の言と智慧と能力及び其の像にして、彼と共に行動し、彼と等しく行爲する者なればなり。
孰か時を定めたる、孰か世世を護る、孰か萬有の彊を立てて之を運行せしむる、無原にして常に父と共に居ること、光線が光の中に在る如き者にあらずや。
鳴呼イイススよ、爾の仁愛は何ぞ無量なる、蓋爾は我等に上より定められたる終の期を告げ、其時を隠したれども、明に其預兆を示せり。
イイススよ、爾は一切を悟り、一切を識る、蓋神聖にして己の中に父の有する所を全く有ち、亦本性を以て己の中に父と同永在の神を全く有ち給ふ。
主宰主、世世の造成者よ、我等をも彼の時に其聖なる聲、父の選びたる衆を天國に呼ぶ者を聽くに勝へさせ給へ。
光榮、無原にして造られざる三者、分れざる惟一者、三にして一なる者、父、子、聖神、惟一の神よ、塵の口よりする歌を燄の口よりする者の如く納れ給へ。
---------------------[聖大月曜日 晩堂大課 1010頁]---------------------
生神女讃詞、童貞女よ爾は神の聖なる居所と現れたり、蓋天の王は肉體にて爾の中に居り、神妙に人の像を衣て、美しき者として出でたり。
坐誦讚詞、第二調
ハリストス恩主よ、爾は慈憐に催されて、甘じて苦を受けん爲に往き給ふ、我等を諸の苦及び地獄の定罪より脱れしめんと欲すればなり。故に救世主よ、我等皆爾の尊き苦を歌頌し、爾の限なき寛容を讚榮す。
第八歌頌
イルモス、諸天使諸天よ、光榮の寶座に坐し神として絶えず讃榮せらるる主を崇め讚め、彼を歌ひて、世世に讃め揚げよ。
靈よ、爾はハリストスが其神聖なる門徒に語げて、終の期を預め知らししを確に聞けり。爾の終を知りて、今より自ら備えよ、逝世の時は届れり。
實を結ばざる靈よ、爾は惡しき僕の喩を知れり、畏れて賜を忽にする勿れ、爾が之を受けしは地に埋まん爲にあらず、乃貿易せん爲なり。
燈は光るべし、其油は溢るべし、其時の處女の親愛の如し、我が靈よ、其時ハリストスの宮の啓きたるに遇はん爲なり。
遁ぐること冬、或は安息日にと師は言ひて、當時の第七世の暴風を先見す、此の
---------------------[聖大月曜日 晩堂大課 1011頁]---------------------
中に冬の如く終は至らん。
閃く電の疾きが若く、斯く其時爾の主宰の彼の畏るべき降臨あらん。吾が靈よ、爾之を聞けり、今より務めて自を備へよ。
審判者が千千萬萬の天軍及び能力と偕に來り、衆が裸體にして立たん時に、吾が靈よ、其時何の畏懼、何の戰慄あらんか、哀い哉。
我等主なる父と子と聖神とを崇め讚めん。
惟一の神は三者にして、父は子たることに變ぜず、子も聖神の位に轉せず、乃各其位に屬することを護る、我光なる神三者を世世に讚榮す。
今も、生神女讃詞、神よ、生神女の祈に因りて、我等の祈禱を納れ、衆に豊に爾の慈憐を遣し、爾の平安を爾の民に與へ給へ。
我等主を讚め、崇め、伏し拜みて、世世に歌ひ讚めん。
次にイルモス、「諸天使諸天よ、光榮の寶座に坐し」。
第九歌頌
イルモス、山に於て立法者に火及び棘の中に預象せられたる、我等信者の救を爲す永貞童女の産を黙さざる歌を以て崇め讚む。
吾が靈よ、爾は審判者が終の期を預言して、爾を訓ふるを聞けり、逝世の爲に
---------------------[聖大月曜日 晩堂大課 1012頁]---------------------
行を備へよ、無功の者として神に棄てられざらん爲なり。
鳴呼吾が靈よ、無花果樹より終を學べ、枝柔にして葉萠せば、夏の時近し、爾も此等を見ば、已に門に在るを知れ。
ハリストス神よ、爾の外に他の者誰か爾の父を識る、又爾の外に誰か時或は日を知る、蓋爾の中には智慧の悉くの寶存するなり。
其時寶座は設けられて、記録は啓かれ、萬衆は裸體にして立ちて、行ひし事は糾さる、證する者も訟ふる者もあらざらん、蓋萬事は神の前に露なり。
衆の審判者は審判を受けん爲に往き、ヘルワィムの座に坐する者は罪せらるる者として、ピラトの前に立ちて、一切の苦を受けん爲に往き給ふ、アダムの救はれん爲なり。
大にして神聖なる我等の「パスハ」は邇づけり、蓋二日の後とハリストスは示して、祭として父に攜へられんとする苦の日を預め記す。
救世主よ、母は爾の十字架の側に立ちて、爾が非義に屠らるるを見て呼べり、哀い哉吾が子、哀い哉入らざる光や、日よ、衆に光榮の光を輝かし給へ。
光榮、鳴呼聖なる惟一者、三位にして惟一なる神性、三者惟一者たる神、同尊にして分れざる光榮よ、我等の靈を諸難より救ひ給へ。
---------------------[聖大月曜日 晩堂大課 1013頁]---------------------
今も、生神女讃詞、ハリストスよ爾の母の祈を納れて、其祈禱に因りて世界を平安にし、國權を堅め、爾の諸敎會を一に合せ給へ。
第九歌頌のイルモス、「山に於て立法者に」。并に伏拜。聖三祝文。「天に在す」の後に本日の小讚詞、「我が不當なる靈よ、臨終の時を思ひ」。次に「萬軍の主よ、我等と偕にせよ」。其他常例の如し。并に發放詞。
~~~~~~
聖大火曜日の早課
「アリルイヤ」第八調に依る。讃詞「視よ、新郎は夜半に來る」、月曜日第九百九十一頁に載す。次に常例の誦文。
第一の誦文の後に坐誦讃詞、第四調。
兄弟よ、我等新郎を愛し、己の燈を飾りて、徳行と正しき信とに輝くべし、主の智き處女の如く備へられて、彼と偕に婚筵に入らん爲なり、蓋新郎は神なるに因りて、賜として衆に不朽の冠を予ふ。
---------------------[聖大火曜日 早課 1014頁]---------------------
光榮、今も、同上。
第二の誦文の後に坐誦讃詞、第四調、
救世主よ、諸司祭及び學士等は甚しく爾を猜みて、不法なる會を集め、爾を付さん爲にイウダを唆せり。故に彼は恥なくして出でて、爾の事を不法なる人人に謂へり、幾何を我に與へんか、我爾等の手に彼を付さんと。主よ、彼の定罪より我等の靈を救ひ給へ。
光榮、今も、同上。
第三の誦文の後に坐誦讃詞、第八調。
イウダは貪の慾に耽りて、夫子に對して仇を起し、謀を設けて、彼を付さん爲に機を窺ふ、光に離れて暗に入り、價を商りて價なき者を賣る。故に不當の者は爾主を付して、行ひし事の報に自ら縊れて、苦しき死を得たり。ハリストス神よ、我等信を以て爾の至浄なる苦を祭る者に諸罪の赦を賜ひて、彼の分を免れしめ給へ。
光榮、今も。同上。
次に「我等に聖福音經を聽くを賜ふを」。福音經はマトフェイ九十端、超えずして九十六端迄、「彼の時ファリセイ等如何にしてイイススを其言に因りて罟せんと謀れ
---------------------[聖大火曜日 早課 1015頁]---------------------
り」。終は九十六端の末、爾等我を見ざらん。其後第五十聖詠。次に「神よ、爾の民を救ひ」。主憐めよ、十二次、小聯禱。
次に小讃詞、第二調。
我が不當なる靈よ、臨終の時を思ひ、無花果樹の斫らるることを懼れて、爾に與へられし賚を務めて用い、且儆醒して呼べ、願はくは我等はハリストスの宮の外に留まらざらん。
同讚詞、我が不當なる靈よ、何ぞ惰る、何ぞ時に合はずして無益の事を慮る、何ぞ逝り易き事を務むる、終の時已に邇づけり、我等此の世の事に離れんとす。時の尚存する間に興きて籲べ、我が救世主よ、爾の前に罪を犯せり、果を結ばざる無花果樹の如く我を斫る勿れ、乃慈憐なるに因りて、主よ、憐を垂れ給へ、蓋我畏れて呼ぶ、願はくはハリストスの宮の外に留まらざらん。
次に二歌頌、コスマ師の作。イルモス二次、讃詞十二句に、畢りて復イルモス、兩詠隊共に。第二調。
第八歌頌
イルモス、敬虔なる三人の少者は苛虐者の命に遵はずして、爐に擲たれ、神を讃美して歌へり、主の造物は主を崇め讃めよ。
---------------------[聖大火曜日 早課 1016頁]---------------------
我等嬾惰を遐ざけ、光明なる燈を執りて、歌を以て不死の新郎ハリストスを迎へて籲ばん、主の造物は主を崇め讃めよ。
願はくは共愛の油は我等の靈の器に満ち、我等買う事の爲に褒賞の時を用いずして歌はん、主の造物は主を崇め讃めよ。
神より賚を受けたる者は、此を賜ひしハリストスの助に藉りて、二倍に恩寵を増して歌ふべし、主の造物は主を崇め讃めよ。
我等主を讃め、崇め、伏し拜みて、世世に歌ひ讃めん。
復イルモス、「敬虔なる三人の少者は」。
「ヘルワィムより尊く」を歌はず。
第九歌頌
イルモス、容れ難き神を腹に容れて、世界に歡喜を生みし生神童貞女よ、我等爾を讃め歌ふ。
至善者よ、爾曾て門徒に謂へり、儆醒せよ、蓋爾等は何の時に主來りて、各人に報いんことを知らず。
主宰よ、爾が畏るべき再度の降臨の時、我が多罪を問はずして、我を右の羊に加え給へ。
---------------------[聖大火曜日 早課 1017頁]---------------------
復、「常に福にして」に代へて、「イルモス」を歌ふ、「容れ難き神を腹に容れて」。
差遣詞、三次。
我が救世主よ、我爾の飾りたる宮を見れども、之に入らん爲に衣を有たず。光を施す者よ、我が靈の衣を照して、我を救ひ給へ。
「凡そ呼吸ある者」に四句を立てて、自調の讃頌を歌ふ、各二次。第一調。
我不當の者何如にして爾が聖者の光る所に入らん、若し敢て共に宮に入らば、衣は我を罪す、其婚筵の衣に非るに因る、我天使等に縛られて、外に投ぜられん。主よ、我が靈の穢を浄めて、我を救い給へ、爾は人を愛する主なればなり。』
第二調、新郎ハリストスよ、我靈の怠惰を以て眠りて、諸徳の燃ゆる燈を獲ざりき、愚なる處女に似たる者となりて、勞すべき時に倦みたり。主宰よ、爾が仁慈の心を我が爲に閉す勿れ、乃我の昏き睡を振ひ醒まして、我を興して、智き處女と偕に爾の宮に入れ給へ。彼處には慶賀する者浄き聲を以て常に呼ぶ、主よ、光榮は爾に歸す。
光榮、今も、第四調、嗟靈よ、爾賚を藏したる者の定罪を聞きて、神の言を隠す勿れ、彼の奇跡を傳へよ、恩賜を增して、爾の主の歡樂に入らん爲なり。
挿句に自調の讃頌、第六調。
---------------------[聖大火曜日 早課 1018頁]---------------------
信者よ、來りて熱心にして主宰に事へん、蓋彼は諸僕に財物を予ふ、我等各其量に適ひて恩寵の賚を多く增すべし。一は善行を以て智慧を養ひ、一は光明の職を盡すべし。信者は言を以て未だ奥義を學ばざる者に諭し、富める者は其財物を貧しき者に施すべし。斯く我等は借りたる者を多く增し、恩寵の忠信なる家宰として、主宰の歡樂に當る者と爲らん。ハリストス神よ、我等を之に當る者と爲らしめ給へ、爾は人を愛する主なればなり。
句、「主よ、夙に爾の憐を以て我等に飽かしめよ」。
イイススよ、爾光榮を以て天使の軍と偕に來りて、審判の寶座に坐せん時、我を離れしむる毋れ、爾は右の路を知る、左の路は曲れる路なり。善き牧者よ、我罪にて荒れたる者を山羊と偕に亡す毋れ、乃我を右の羊に合せて救い給へ、爾は人を愛する主なればなり。
句、「願はくは主吾が神の惠は我等に在らん」。
美しきこと衆人に超えたる新郎、我等を爾の宮の屬神の筵に招きたる者よ、爾の苦に與るを以て、我が諸罪の醜き姿容を脱がせて、爾が美麗の光榮なる衣にて飾り、我を爾の國の筵に與る歡樂に堪へさせ給へ、爾は慈憐なればなり。
---------------------[聖大火曜日 早課 1019頁]---------------------
光榮、今も、第七調、我が靈よ、視よ、主宰は爾に賚を託す、寅畏を以て恩賜を受けよ、予へし者に假せ、貧しき者に施せ、主を友として獲よ、彼が光榮を以て來らん時、爾其右に立ちて、福たる聲、僕よ、爾が主の歡樂に入れと云ふを聞かん爲なり。救世主よ、我迷ひし者を之を聞くに堪ふる者と爲し給へ、爾の大なる憐に因りてなり。
其他の次第は常例の如し。
時課は常例の誦文と偕に、并に福音經の誦讀、
第六時課に預言の讃詞、第一調。
救世主よ、我等數へ難く罪を犯しし者を寛大に赦し給へ。獨洪恩なる主よ、爾の至浄なる母の祈禱に因りて、我等を定罪なくして、爾の聖なる復活に伏拜するに堪ふる者と爲し給へ。
提綱、第百二十九聖詠、第六調、憐は主にあり、大なる贖も彼にあり。句、主よ、我深き處より爾に呼ぶ。主よ、我が聲を聽き給へ。
イエゼキイリの預言書の讀。第一章。
生物の行く時は、輪も行き、彼止まる時は、此も止まり、彼地より擧がる時は、輪も彼等に並びて擧れり、蓋生物の神は輪の中に在りき。生物の首の上に穹蒼の式あり、驚
---------------------[聖大火曜日 第六時課 1020頁]---------------------
くべき水晶が彼等の首の上に張りたる狀の如し。穹蒼の下に其翼直く開きて、彼と此と相向へり、各二の翼ありて彼等を蔽ひ、各二の翼彼等の身を蔽へり。彼等行く時、我其翼の聲を聞けるに、多くの水の聲の如く、全能者の聲の如く、強き聲にして、軍營の聲の如し、其止まれる時、己の翼を戢めたり。其首の上なる穹蒼より聲ありき、其止まれる時、己の翼を垂れたり。其首の上なる穹蒼の上に青玉(サブフィル)の狀の如き寶座の式ありき、寶座の式の上に人の像の如きありき。我會め鎔かしたる金の如く、火の狀の如き者を其内の周圍に見たり、其腰の式より上、其腰の式より下に、我火の狀の如きあるを見たり、其周圍に光明ありき。其周圍の光明は雨の日に雲に顯るる虹の狀の如し。主の光榮の式の狀は是くの如し。
提綱、第百三十聖詠、第四調、願はくはイズライリは主を恃みて今より世世に迄らん。句、主よ、我が心驕らず、我が目高ぶらざりき。
其他。續きて第九時課を誦す、「カフィズマ」なし、福音經を讀む。并に眞福詞を歌ふ、及び「主よ、爾の國に來らん時」、拜と共に。其他皆月曜日に記ししが如し。
~~~~~~
---------------------[聖大火曜日 第六時課 1021頁]---------------------
聖大火曜日の晩課
常例の誦文。「主よ、爾に籲ぶ」に十句を立てて、自調の讃頌を歌ふ。
第一調、我不當の者、如何にして爾が聖者の光る所に入らん、若し敢て共に宮に入らば、衣は我を罪す、其婚筵の衣に非るに因る、我天使等に縛られて、外に投ぜられん。主よ、我が靈の穢を浄めて、我を救ひ給へ、爾人を愛する主なればなり。
第二調、新郎ハリストスよ、我靈の怠惰を以て眠りて、諸徳の燃ゆる燈を獲ざりき、愚なる處女に似たる者となりて、勞すべき時に倦みたり。主宰よ、爾が仁慈の心を我が爲に閉す勿れ、乃ち我の昏き眠を振ひ醒まして、我を興して、智き處女と偕に爾の宮に入れ給へ。彼處には慶賀する者浄き聲を以て常に呼ぶ、主よ、光榮は爾に歸す。
第四調、嗟靈よ、爾賚を藏したる者の定罪を聞きて、神の言を隠す勿れ、彼の奇跡を傳へよ、恩賜を增して、爾の主の歡喜に入らん爲なり。
第六調、信者よ、來たりて熱心にして主宰に事へん、蓋彼は諸僕に財物を予ふ、我等各其量に適ひて恩寵の賚を多く增すべし。一は善行を以て智慧を養ひ、一
---------------------[聖大火曜日 晩課 1022頁]---------------------
は光明の職を盡すべし。信者は言を以て未だ奥義を學ばざる者に諭し、富める者は其財物を貧しき者に施すべし。斯く我等は借りたる者を多く增し、恩寵の忠信なる家宰として、主宰の歡喜に當る者と爲らん。ハリストス神よ、我等を之に當る者と爲らしめ給へ、爾人を愛する主なればなり。
イイススよ、爾光榮を以て天使の軍と偕に來りて、審判の寶座に坐せん時、我を離れしむる毋れ、爾は右の路を知る、左の路は曲れる路なり。善き牧者よ、我罪にて荒れたる者を山羊と偕に亡す毋れ、乃我を右の羊に合せて救ひ給へ、爾は人を愛する主なればなり。
美しきこと衆人に超えたる新郎、我等を爾の宮の屬神の筵に招きたる者よ、爾の苦に與るを以て、我が諸罪の醜き姿容を脱がせて、爾が美麗の光榮なる衣にて飾り、我を爾の國の筵に與る歡喜に堪へさせ給へ、爾は慈憐なればなり。
光榮、今も、第七調、我が靈よ、視よ、主宰は爾に賚を託す、寅畏を以て恩賜を受けよ、予へし者に假せ、貧しき者に施せ、主を友として獲よ、彼が光榮を以て來らん時、爾其右に立ちて、福たる聲、僕よ、爾が主の歡樂に入れと云ふを聞かん爲なり。救世主よ、我迷ひし者を之を聞くに堪ふる者と爲し給へ、爾の大なる憐
---------------------[聖大火曜日 晩課 1023頁]---------------------
に因りてなり。
福音經捧持の聖入。「穏なる光」。
提綱、第百三十一聖詠、第六調、主よ、爾及び爾が能力の匱は爾が安息の所に立てよ、句、主よ、ダワィドと其悉くの憂とを記憶せよ。
エギペトを出づる記の讀、第二章。
ファラオンの女水浴せん爲に河に下り、其婢等河の畔に歩めり。彼蘆の間に箱の在るを見て、婢を遣して之を取れり。之を啓けば、箱の中に啼ける兒を見たり。ファラオンの女之を憐みて曰へり、此れエウレイ人の子なり。時に其姉ファラオンの女に謂へり、我が往きて、エウレイの婦の中より此の子を爾の爲に養ふべき乳媼を呼ばんことを欲するか。ファラオンの女彼に謂へり、往け。童女往きて、子の母を呼べり。ファラオンの女彼に謂へり、此の子を取りて、我が爲に之を養へ、我其値を爾に與へん。婦子を取りて之を養へり。子の長ずるに及びて、之をファラオンの女に攜へたれば、則其子と爲れり、彼其名をモイセイと名づけたり、蓋曰へり、我彼を水より取れり。
提綱、第百三十二聖詠、第四調、兄弟睦しく居るは善なる哉、美なる哉。句、是れ寶なる膏が首にありて、髯卽アアロンの髯に流るるが如し。
---------------------[聖大火曜日 晩課 1024頁]---------------------
イオフ書の讀、第一章。
一日イオフの子女は其第一の兄の家に在りて、食ひ且酒を飮めり。視よ、使者イオフに來りて謂へり、牛耕し、牝驢馬其側に飼はれしに、サワェイ人襲ひて之を奪ひ、刃を以て諸僕を殺せり、我惟一人逃れて、爾に告げん爲に來れり。彼が尚語れる時、他の使者來りてイオフに謂へり、火天より降りて羊を焚き、牧者を同じく滅せり、我惟一人逃れて、爾に告げん爲に來れり。彼が尚語れる時、他の使者來りてイオフに謂ふ、ハルデヤ人三隊に分れ來りて、駱駝を環りて之を奪ひ、刃を以て諸僕を殺せり、我惟一人逃れて、爾に告げん爲に來れり。彼が尚語れる時、他の使者來りてイオフに謂ふ、爾の子女が其第一の兄の家に在りて食飮せし時、猝に大風曠野より來りて、家の四隅を撃ち、家爾の諸子の上に落ちて、皆死せり、我惟一人逃れて、爾に告げん爲に來れり。斯くイオフ聞き畢りて、起ちて其衣を裂き、髪を剪り、灰を蒙り、地に伏し、主を拜して曰へり、我裸にして、我が母の胎より出でたり、裸にして彼處に歸らん、主は與へ、主は取れり、主の欲せし如く成りたり、主の名は世世に祝讃せらるべし。凡そイオフに及びし此等の事に於て、彼は主の前に聊も罪を犯さず、神に對ひて無知なる事を言はざりき。
---------------------[聖大火曜日 晩課 1025頁]---------------------
次に「願はくは我が禱は香爐の香の如く」。福音經はマトフェイ百二端。其他先備聖體禮儀の式。
~~~~~~
聖大火曜日の晩堂大課
其中に三歌頌を歌ふ、クリトのアンドレイ師の作。第二調。
第三歌頌
イルモス、諸善を耕作し、諸得を培養する神よ、爾の慈憐に因りて、實を結ばざる我が智慧を實を結ぶ者と顯し給へ。
終の時なり、我等是より轉移せん、ハリストスは訓ふ、蓋彼は瞬の間に來らん、來りて、遅はらずして全世界を審判せん。
ハリストスは己の降臨の俄ならんことを示して、ノイの古の待たざる滅亡は地に至らんと言へり。
宮は啓かれ、之と偕に神聖なる婚筵は飾られたり、我等を招く新郎は邇し、我等是よ
---------------------[聖大火曜日 晩堂大課 1026頁]---------------------
り自ら備へん。
イイスス王よ、シモンの家は爾遍く容るる能はざる者を容れ、罪ある婦は香膏を以て爾に抹れり。
救世主よ、婦は祕密の馨しき香に滿てられて、先の多罪の惡臭を脱れたり、蓋爾は生命の香膏を流す。
飢うる者の天の糧、親ら生命たるハリストスよ、爾は己の寛容を顯して、人人と偕に食へり。
ハリストスよ、恩を知らざる門徒は爾に背き、爾を賣らんことを企てて、至りて不法なる者の群を煽動して、爾に向はしめたり。
光榮、父と侔しく子及び義なる神、惟一の神性に伏拜し、位を分ち、性を合せて、之を讃頌す。
今も、生神女讃詞、イイスス神よ、爾牧者及び羔たる者を生みし牝羊は常に爾を信ずる衆人の爲に祈る。
坐誦讚詞、第一調。
視よ、實に兇惡なる會は仇を含みて集まり、萬衆の審判者として上に坐する主を罪犯者の如くに定罪せんと欲す。今ピラトと偕にイロド、亦アンナ及びカイアファは
---------------------[聖大火曜日 晩堂大課 1027頁]---------------------
獨一寛忍なる者を詰問せん爲に集まる。
第八歌頌
イルモス、昔シナイ山に於て棘の中にモイセイに童貞女の奇跡を預め示しし者を尊み歌ひ、崇め讃めて、萬世に讃め揚げよ。
我等の終の期を知らざるなくして世世を持つ者は彼の日を知らずと言へり、卽衆の爲に謙遜の域を立てたり。
審判者よ、爾は言ひし如く、坐して、牧者として綿羊より山羊を別つ時、救世主よ、我等に左に立つを免れしめて、爾の神聖なる右の手を我等に失はしむる毋れ。
ハリストスよ、爾は我等の「パスハ」、衆の爲に羔及び祭の如く獻ぜられし者、罪過の潔浄たる者なり。我等爾の神聖なる苦を萬世に崇め讃む。
吾が靈よ、一生涯は磨石及び田畝又家に譬へられたり、故に備へたる心を神に獻ぜよ、恐らくは肉體の腐敗に因りて失ふ所あらん。
救世主よ、爾は甘じて惟ファリセイ等又シモンの家に食せん爲に入り給ひしのみならず、卽諸税吏亦淫婦等も爾の慈憐を斟む。
貪に耽る賣主者イウダは耗されし香膏の爲に慮り、後に主宰を賣らん爲に
---------------------[聖大火曜日 晩堂大課 1028頁]---------------------
計りて不法者に來りて價の事を共議せり。
鳴呼善智なる淫婦の福たる手、鳴呼其髪及び口や、救世主よ、彼は其等を以て爾の足に香膏を沃ぎ、之を拭ひて屡接吻せり。
言よ、爾が席坐せる時、婦は就きて、爾の足下に哭きて、爾救世主、不死の香膏たる者の首に香膏の盒を傾けたり。
我等主なる父と子と聖神とを崇め讃めん。
父と侔しく子及び聖神、惟一の神性に於て聖なる三者を讃榮して籲ばん、爾は世世に聖、聖、聖なり。
今も、生神女讚詞、救世主よ、爾の至浄なる母及び爾の使徒等の祈禱に因りて、豊に爾の慈憐を我等に遣し、爾の平安を爾の民に與へ給へ。
次に、我等主を讃め、崇め、伏し拜みて、世世に歌ひ讃めん。
イルモス、「昔シナイ山に於て棘の中に」。
第九歌頌
イルモス、我等信者は、父より永遠に光れる言を身にて測り難く孕みし者を、息めざる歌を以て崇め讃む。
我が靈よ、功勞の時、救の目的を賚として受けて、始の像、永遠の生命を買へ。』
---------------------[聖大火曜日 晩堂大課 1029頁]---------------------
光明なる燈の如く靈を飾りて、新郎の來る時、門の閉さるる先に、彼と偕に不朽の婚筵に入らん。
飢うる者の糧たるイイススよ、爾は性に超ゆる爾の謙遜を衆に示さんと欲して、シモンの家に於て晩餐を食し給へり。
生命を施す糧たるイイススよ、爾はシモンファリセイと偕に食し給へり、淫婦が香膏を傾くるに藉りて爾の買はれざる恩寵を獲ん爲なり。
我の手は穢はし、淫婦の口は我に在り、我の度生は不潔にして、百體は腐敗したり、然れども我を宥めて赦し給へと、淫婦はハリストスに籲ぶ。
救世主よ、婦は爾の足に就きて香膏を傾くる時、馨しき香氣を室に滿てて、自は行の潔浄なる香膏に滿てられたり。
我香料には富み、徳には乏し、有つ所を爾に獻ぐ、爾有つ所を親ら我に與へ、我を宥めて赦し給へと、淫婦はハリストスに籲ぶ。
我には朽つべき香膏あり、爾には生命の香膏あり、蓋爾の名は之を承くるに堪ふる者に沃がれたる香膏なり、求む、我を宥めて赦し給へと、淫婦はハリストスに籲ぶ。
光榮、父は無原なり、子は造られざる者なり、聖神は同座なる者なり、三の者は
---------------------[聖大火曜日 晩堂大課 1030頁]---------------------
性に於て一、位に於て三なる惟一の眞の神なり。
今も、生神女讚詞、生神女、常に爾を尊む者の恃よ、爾より生れし者に我を諸難及び諸の誘より脱れしめんことを息めずして祈り給へ。
~~~~~~
聖大水曜日の早課
六段の聖詠の後に、「アリルイヤ」、第八調に、及び讚詞、三次、「視よ、新郎は」、大月曜日第九百九十一頁を看よ。并に「カフィズマ」の誦讀。
第一の誦文の後に坐誦讃詞、第三調。
人を愛する主よ、淫婦は爾に就き、香膏を涙と共に爾の足に注ぎて、爾の命に縁りて惡の臭氣より救はる。然れども恩を知らざる門徒は爾の恩寵を呼吸して、此を絶ち、臭氣に蔽はれて、貪に由りて爾を賣る。ハリストスよ、光榮は爾の慈憐に歸す。
光榮、今も、同上。
---------------------[聖大水曜日 早課 1031頁]---------------------
第二の誦文の後に坐誦讃詞、第四調。
主よ、詭譎なるイウダは貪の慾に耽りて、爾生命の寶を賣らんことを謀る。惡謀に醉ひてイウデヤ人に趨りて、不法の者に謂ふ、爾等我に幾何を與へんと欲するか、我彼を爾等に十字架に釘せん爲に付さん。
光榮、今も、同上。
第三の誦文の後に坐誦讃詞、第一調。
慈憐なる主よ、淫婦は涙を流し、熱切に爾の至浄なる足を己の首髪にて拭ひて、心の深處より歎息して呼べり、我が神よ、我を退くる勿れ、諱む勿れ、求む、我悔ゆる者を容れて、獨仁愛なる主として救ひ給へ。
光榮、今も、同上。
次に福音經、イオアン四十一端の末、四十三端の終まで超えず、「彼の時イイススと偕に在りし民は、彼がラザリを墓より呼び出して」、終は我が語る所は、父の我に言ひし如く語るなり。第五十聖詠。三歌頌。コスマ師の作。イルモス二次、讃詞十二句に、後に復イルモス、兩詠隊共に。第二調。
第三歌頌
イルモス、爾我を信の石に堅く立て、我が口を啓きて、我が敵に對はしめ給へり。
---------------------[聖大水曜日 早課 1032頁]---------------------
蓋我が神は樂しみて歌へり、吾が神と侔しく聖なるはなく、主よ、爾の外に義なるはなし。
ハリストスよ、不法者の會は集まりて惡しき計を抱き、徒に謀りて爾贖罪主を罪に定めんと欲す。我等爾に歌ふ、主よ、爾は我等の神なり、爾の外に聖なるはなし。
不法者の強暴なる會は神に逆ふ靈を以て、義なるハリストスを惡を行ふ者として殺さんと謀る。我等彼に歌ふ、主よ、爾は我等の神なり、爾の外に聖なるはなし。
小讃詞、第四調。
至善者よ、我淫婦よりも多く不法を爲して、未だ涙の雨を爾に獻ぜざりき、惟黙禱して爾に俯伏し、愛を以て爾の潔き足に接吻して、爾が主宰として我に債の免を賜はんことを求む。救世主よ、爾に籲ぶ、我が不潔の行より我を救ひ給へ。
同讃詞
先に淫亂の婦たりし者は俄に貞潔と爲れり、蓋耻づべき罪の行と肉體の逸樂とを惡めり、淫亂者及び放蕩者が受けんとする大なる耻及び苦に定むる審判を記念
---------------------[聖大水曜日 早課 1033頁]---------------------
したればなり、彼等の中に我第一なり。我無知なる者は懼るれども、惡しき習を脱せず、然るに淫亂の婦は懼れて急ぎ、疾く來りて救贖者に籲べり、人を愛する慈憐の主よ、不潔の行より我を救ひ給へ。
第八歌頌
イルモス、昔苛虐者の嚴しき言に因りて、爐は七倍熱くせられたれども、王の命を輕ぜし少者は其中に焚かれずして籲べり、主の悉くの造物は主を歌ひて、萬世に崇め讃めよ。
ハリストスよ、婦は至貴き香膏を爾が主宰にして神聖なる畏るべき首に沃ぎ、汚れたる手を以て爾の潔き足に觸れて籲べり、主の悉くの造物は主を歌ひて、萬世に崇め讃めよ。
罪を負へる婦は造物主の足を涙にて洗ひ、髪にて拭ふ、故に彼は一生行ひし諸罪の赦を失はずして籲べり、主の悉くの造物は主を歌ひて、萬世に崇め讃めよ。
聰明なる婦の救を爲す傷感と涙の流とに藉りて、救贖は奥密に行はる、蓋彼は痛悔を以て、其流にて己を洗ふを恥ぢずして籲べり、主の悉くの造物は主を歌ひて、萬世に崇め讃めよ。
---------------------[聖大水曜日 早課 1034頁]---------------------
我等主を讃め、崇め、伏し拜みて、世世に歌ひ讃めん。
復イルモス、「昔苛虐者の嚴しき言に因りて」。
「ヘルワィムより尊く」を歌はず。
第九歌頌
イルモス、來りて、浄き靈と汚なき口とを以て、玷なくして至りて潔きエムマヌイルの母を讃め揚げ、彼を以て彼より生れし者に祈禱を奉りて曰はん、ハリストス神よ、我等の靈を宥めて、我等を救ひ給へ。
無知にして狡猾なる嫉妬者と顯れたる殘忍のイウダは神愛の恩寵を盗みて、罪の債の赦を得しむる神聖なる恩賜を交易の物として賣る。ハリストス神よ、我等の靈を宥めて、我等を救ひ給へ、
金の爲にハリストスと親を絶ちしイウダは不法なる有司等に就きて曰ふ、爾等我に幾何を與へんと欲するか、我爾等が執へんと欲するハリストスを爾等に付さんと。ハリストス神よ、我等の靈を宥めて、我等を救ひ給へ。
鳴呼昧みたる貪や、爾不虔者は此に藉りて、曾て敎へられし如く、全世界の價が靈より輕きを忘れたり、蓋爾は、主を賣る者よ、失望に因りて、自ら縊れて死せり。ハリストス神よ、我等の靈を宥めて、我等を救ひ給へ。
---------------------[聖大水曜日 早課 1035頁]---------------------
次にイルモス、「來りて、浄き靈と汚なき口と」。
差遣詞、三次、常例の如し。
我が救世主よ、我爾の飾りたる宮を見れども、之に入らん爲に衣を有たず。光を施す者よ、我が靈の衣を照して、我を救ひ給へ。
「凡そ呼吸ある者」に四句を立てて、左の自調の讃頌を歌ふ。第一調。
淫婦は爾童貞女の子を神と認め、涙に當る事を行ひしに因りて、泣きて禱りて曰へり、恩を施す仁慈の主よ、債を釋き給へ、我も髪を釋きしが如し、義に合ひて惡まるれども、愛する者を愛せよ、然らば我税吏の中に爾を傳へん。
淫婦は至貴き香膏を涙に參へ、爾の至浄なる足に沃ぎて、之に接吻せしに、爾直に彼を義と爲せり。我等の爲に苦を受けし主よ、我等にも赦を賜ひて、我等を救ひ給へ。
罪女が香膏を獻げし時、門徒は不法者と共に謀れり。彼は價貴き者を費して喜び、此は價なき者を賣らんと務めたり、彼は主宰を識り、此は主宰より離れたり、彼は自由を獲、イウダは敵の奴隷と爲れり。怠惰は畏るべく、痛悔は大なり、我等の爲に苦を受けし救世主よ、之を我等に賜ひて、我等を救ひ給へ。
鳴呼イウダの罪惡や、淫婦が足に接吻するを見て、主を付す接吻を謀れり。
---------------------[聖大水曜日 早課 1036頁]---------------------
彼は髪を釋き、此は怒に縛られ、香膏に代へて惡臭の憎惡を抱けり、蓋猜忌は益あることを尊むを知らず。嗚呼イウダの罪惡や。神よ、我等の靈を此より救ひ給へ。
光榮、第二調、罪女は香膏の爲に趨れり、貴き香料を買ひて、恩主に塗らん爲なり。香料を賣る者に呼べり、香膏を我に與へよ、我も我が悉くの罪を浄めし者に塗らん爲なり。
今も、第六調、罪に溺れたる婦は救の湊として爾を獲て、爾に籲べり、香膏を涙に參ふる者をも見よ、罪人等の痛悔を俟つ主宰よ、之を見て、爾の大なる憐に因りて我を罪の波濤より救ひ給へ。
挿句に自調の讃頌、第六調。
今日ハリストスがファリセイの家に來れるに、罪女は其足に近づき、俯伏して籲べり、主よ、罪に溺れたる者、行に由りて望を失ひし者、爾の仁慈に厭はれざる者を觀て、我に諸惡の赦を賜ひて、我を救ひ給へ。
句、「主よ、夙に爾の憐を以て我等に飽かしめよ」。
淫婦は爾主宰に髪を伸べ、イウダは不法の者に手を伸べたり、彼は赦を受けん爲、此は銀を取らん爲なり。故に我等は爾賣られて我等を自由にせし者に籲ぶ、
---------------------[聖大水曜日 早課 1037頁]---------------------
主よ、光榮は爾に歸す。
句、「願はくは主吾が神の惠は我等に在らん」。
救世主よ、汚れたる婦は就きて、爾の足に涙を注ぎ、慾を痛告して言へり、如何にして我爾主宰を見ん、蓋爾親ら淫婦を救はん爲に來れり。四日目のラザリを墓より起しし者よ、我死せし者を淵より起し給へ、主よ、我不當の者を受けて、我を救ひ給へ。
句、主よ、我心を盡して爾を讃め揚げ、爾が悉くの奇迹を傅へん。
行に由りて望を失ひ、習に由りて衆に知らるる者は、香膏を攜へて、爾に就きて、籲べり、童貞女より生れし者よ、我淫婦を斥くる勿れ、天使等の歡樂なる者よ、我が涙を輕ずる勿れ。我罪を犯す者を遠ざけざりし主よ、痛悔する者を受け給へ、爾の大なる憐に因りてなり。
光榮、今も、自調、第八調。
修道女カッシアナの作。
主よ、多くの罪に陷りし婦は爾の神性に感ぜられて、攜香女の職を執り、泣きて爾に葬の前に香膏を捧げて云ふ、哀しい哉我や、我の爲には淫亂の焦熱は夜の如く、罪惡の慾は月なき闇の如し、雲を以て海の水を造る主よ、我が涙の流を納れ給
---------------------[聖大水曜日 早課 1038頁]---------------------
へ、爾の言ひ難き謙遜にて天を傾けたる主よ、吾が心の歎息に傾き給へ、我が爾の至浄なる足に接吻して、吾が髪を以て之を拭はん爲なり、斯の足の響をエワは樂園に於て日の昃ける時耳に容れて、畏に因りて匿れたり。我が罪は甚多し、然れども爾の義判の淵は、孰か能く之を測らん。我が靈を救ふ救世主、無量なる慈憐を有つ者よ、願はくは我爾の婢を棄てざらん。
次に「至上音よ、主を讃榮し」。聖三祝文。大小拜。并に第一時課、「カフィズマ」の誦讀なし。大小拜、其次第に循ふ。「リティヤ」、并に發放詞。其他先に大月曜日に記ししが如し。
第六時課に預言の讚詞、第八調。
今日兇惡の會は集まりて、爾に對して徒に謀る。今日イウダは承諾に因りて縊を聘定し、カイアファは己に由るに非ずして、爾が獨衆の爲に甘じて死を受くるを認む。我等の贖罪主、ハリストス神よ、光榮は爾に歸す。
提綱、第百三十三聖詠、第四調、天地を造りし主はシオンより爾に降福せん、句、主の諸僕よ、今主を崇め讃めよ。
イエゼキイリの預言書の讀。第二章。
主我に謂へり、人の子よ、我爾をイズライリの諸子、我に叛きし叛逆の民に遣す、
---------------------[聖大水曜日 六時課 1039頁]---------------------
彼等及び其先祖は我に悖りて今日に至れり。此の諸子は厚顔にして、剛愎なる心の者なり、我爾を彼等に遣す、爾彼等に謂はん、主神は是くの如く言ふ彼等は悖れる家なり、然れども彼等は聽くとも、聽かずとも、預言者の彼等の中に在りしを知らん。爾人の子よ、彼等を畏るる毋れ、其言に驚く毋れ、薊と棘と爾を繞り、爾蠍の間に居るとも、彼等の言を畏るる毋れ、其面に驚く毋れ、蓋彼等は悖れる家なり、彼等聽くとも、其悖れる者なるに因りて聽かずとも、爾我が言を彼等に告げよ。爾人の子よ、我が爾に言ふ所を聽け、彼の惇れる家の如く悖る毋れ、爾の口を啓きて、我が爾に予ふる者を食へと。時に我觀しに、視よ、手伸びて我に向へり、其中に書卷あり。彼之を我が前に開きしに、書卷の内外に文字ありて、之に嗟歎と悲哀と兇災とを録せり。彼我に謂へり、人の子よ、爾の前に在る者を食へ、此の書卷を食ひて、往きてイズライリの家に告げよ。是に於て我我が口を啓けば、彼我に此の書卷を食しめて、我に謂えり、人の子よ、我が爾に予ふる此の書卷を以て爾の腹を養ひ、爾の内を充たせ、我之を食ひしに、其我が口に甘きこと蜜の如くなりき。
提綱、第百三十四聖詠、第六調、主を畏るる者よ、主を崇め讃めよ。句、主の名を讃め揚げよ、主の諸僕よ、讃め揚げよ。
---------------------[聖大水曜日 六時課 1040頁]---------------------
福音經の誦讀。聖三祝文。大小拜、其次第に循ふ。時課の「カフィズマ」の誦讀は斯の時課に於て畢る。
第九時課を聖三祝文を以て始む。其中に四福音經の終の誦讀あり。次に誦す、「爾の名に因りて我等を終まで棄つる勿れ」。聖三祝文。大小拜。又眞福詞。常例の拜を爲す。大水曜日の小讃詞、「至善者よ、我淫婦より多く不法を爲して」、及び本堂の聖人のを誦す。光榮、「ハリストスよ、爾が諸僕の靈を諸聖人と偕に」。今も、生神女の堂の、若し無くば、誦す、「ハリスティアニン等の辱を得ざる轉達」。主憐めよ、四十次。三大拜及び十二小拜。聖三祝文、及び三拜、主憐めよ、十二次。并に祝文、「至聖なる三者、一性の權柄」。次に「常に福にして」。光榮、今も。并に發放詞に代へて、司祭衆に向ひて祝文を誦す、「主宰大仁慈なる主イイススハリストス」、終に至る。
之を誦する時、衆人地に伏俯して禱る。祝文畢り、衆起立して後、司祭自をも衆に向ひて俯伏して赦を乞ひて云ふ、尊き諸神父及び兄弟よ、我罪人に降福して、我が生涯及び此の聖四旬齋内に、言と行と思と我が悉くの感覺にて犯しし諸罪を赦し給へ。衆之に答ふ、尊神父よ、願はくは神は爾に赦し給はん。次に衆も亦各彼に向ひて赦を乞ひて云ふ、尊神父よ、我に赦し給へ。其他前に記ししが如し。赦を受けて後、修道院に於ては兄弟各其室に歸りて、晩課の時を侔つ。民間の聖堂には、散
---------------------[聖大水曜日 九時課 1041頁]---------------------
ずることなく、直に鐘を鳴らして晩課を始む、
~~~~~~
聖大水曜日の晩課
首誦聖詠。常例の誦文「我我が憂の中に主に呼びしに」拜なし。
「主よ、爾に籲ぶ]に十句を立てて、自調の讃頌を歌ふ。第一調。
淫婦は爾童貞女の子を神と認め、涙に當る事を行ひしに因りて、泣きて禱りて曰へり、恩を施す仁慈の主よ、債を釋き給へ、我も髪を釋きしが如し、義に合ひて惡まるれども、愛する者を愛せよ、然らば我税吏の中に爾を傳へん。
淫婦は至貴き香膏を涙に參へ、爾の至浄なる足に沃ぎて、之に接吻せしに、爾直に彼を義と爲せり。我等の爲に苦を受けし主よ、我等にも赦を賜ひて、我等を救ひ給へ。
罪女が香膏を獻げし時、門徒は不法者と共に謀れり、彼は價貴き者を費して喜び此は價無き者を賣らんと務めたり、彼は主宰を識り、此は主宰より離れたり、
---------------------[聖大水曜日 晩課 1042頁]---------------------
彼は自由を獲、イウダは敵の奴隷と爲れり。怠惰は畏るべく、痛悔は大なり、我等の爲に苦を受けし救世主よ、之を我等に賜ひて、我等を救ひ給へ。
鳴呼イウダの罪惡や、淫婦が足に接吻するを見て、主を付す接吻を謀れり。彼は髪を釋き、此は怒に縛られ、香膏に代へて惡臭の增惡を抱けり、蓋猜忌は益あることを尊むを知らず。鳴呼イウダの罪惡や。神よ、我等の靈を此より救ひ給へ。
第二調、罪女は香膏の爲に趨れり、貴き香料を買ひて、恩主に塗らん爲なり。香料を賣る者に呼べり、香膏を我に與へよ、我も我が悉くの罪を浄めし者に塗らん爲なり。
第六調、罪に溺れたる婦は救の湊として爾を獲て、爾に籲べり、香膏を涙に參ふる者をも見よ、罪人等の痛悔を俟つ主宰よ、之を見て、爾の大なる憐に因りて我を罪の波濤より救ひ給へ。
今日ハリストスがファリセイの家に來れるに、罪女は其足に近づき、俯伏して籲べり、主よ、罪に溺れたる者、行に由りて望を失ひし者、爾の仁慈に厭はれざる者を觀て、我に諸惡の赦を賜ひて、我を救ひ給へ。
淫婦は爾主宰に髪を伸べ、イウダは不法の者に手を伸べたり、彼は赦を受けん爲、
---------------------[聖大水曜日 晩課 1043頁]---------------------
此は銀を取らん爲なり。故に我等は爾賣られて我等を自由にせし者に籲ぶ、主よ、光榮は爾に歸す。
救世主よ、汚れたる婦は就きて、爾の足に涙を注ぎ、慾を痛告して言へり、如何にして我爾主宰を見ん、蓋爾親ら淫婦を救はん爲に來れり。四日目のラザリを墓より起しし者よ、我死せし者を淵より起し給へ、主よ、我不當の者を受けて、我を救ひ給へ。
行に由りて望を失ひ、習に由りて衆に知らるる者は、香膏を攜へて、爾に就きて籲べり、童貞女より生れし者よ、我淫婦を斥くる勿れ、天使等の歡樂なる者よ。我が涙を輕ずる勿れ。我罪を犯す者を遠ざけざりし主よ、痛悔する者を受け給へ、爾の大なる憐に因りてなり。
光榮、今も、第八調。修道女カッシアナの作。
主よ、多くの罪に陷りし婦は爾の神性に感ぜられて、攜香女の職を執り、泣きて爾に葬の前に香膏を捧げて云ふ、哀しい哉我や、我の爲には淫亂の焦熱は夜の如く、罪惡の慾は月なき闇の如し。雲を以て海の水を造る主よ、我が涙の流を納れ給へ、爾の言ひ難き謙遜にて天を傾けたる主よ、吾が心の歎息に傾き給へ、我が爾の至浄なる足に接吻して、吾が髪を以て之を拭はん爲なり、斯の足の響をエワは
---------------------[聖大水曜日 晩課 1044頁]---------------------
樂園に於て日の昃ける時耳に容れて、畏に因りて匿れたり。我が罪は甚多し、然れども爾の義判の淵は、孰か能く之を測らん。我が靈を救ふ救世主、無量なる慈憐を有つ者よ、願はくは我爾の婢を棄てざらん。
福音經捧持の聖入。「穩なる光」。
提綱、第百三十五聖詠、第四調、天の神を讃榮せよ、蓋彼は仁慈にして、其憐は世世にあればなり。句、諸神の神を讃榮せよ、其憐は世世にあればなり。
エギペトを出づる記の讀、第二章。
彼の日モイセイ既に長じて、出でて其兄弟たるイズライリの諸子に詣りて、其苦役を觀たり。彼一のエギペト人がエウレイ人卽己の兄弟たるイズライリの諸子の一を撃つを見たれば、左右を環視して、人の在らざるを見、エギペト人を殺して、之を沙の中に匿せり。次の日復出でて、二のエウレイ人の相闘ふを見たれば、不義を爲す者に謂へり、爾は何ぞ其隣を撃つ。彼曰へり、誰か爾を立てて、我等の有司及び裁判官と爲したる、豈爾は昨日エギペト人を殺しし如く、我を殺さんと欲するか。モイセイ懼れて曰へり、此の事必露れたるならん。ファラオン此の事を聞きて、モイセイを索めて、殺さんと欲せり、然れどもモイセイファラオンの面を避け、遁れてマティアムの地に住めり。彼マティアムの地に來りて、井の傍に坐せ
---------------------[聖大水曜日 晩課 1045頁]---------------------
り。マティアムの司祭に七人の女、其父イオフィルの羊を牧する者ありき。彼等來りて水を汲み、水槽に盈てて、其父イオフィルの羊に飮ましめんとせしに、牧者等來りて彼等を遂へり。モイセイ起ちて、彼等を助け、水を汲みて、彼等の羊に飮ましめたり。彼等其父ラグイルに至れる時、彼曰へり、今日爾等何ぞ斯く速に歸りたる。彼等曰へり、一のエギペト人我等を牧者等より助けて、我等の爲に水を汲みて、羊に飮ましめたり。彼其女等に謂へり、斯の人安に在るか、何ぞ斯く彼を遺てたる、彼を呼びて餅を食はしむべし。モイセイ斯の人の所に居りたり。彼は其女セプフォラをモイセイに與へて妻と爲せり。妻孕みて男子を生めり、モイセイ其名をギルサムと名づけて曰へり、我異邦に客たればなり。復孕みて次子を生めり、眞名をエリエゼルと名づけて曰へり、我が父の神は我を助くる者と爲りて、我をファラオンの手より救ひたればなり。
提綱、第百三十七聖詠、第四調、主よ、爾の憐は世世にあり、爾の手の造りし者を棄つる毋れ。句、我心を盡して爾を讃榮し、諸天使の前に於て爾に歌ふ。
イオフ書の讀。第二章。
一日神の使等來りて主の前に立てるに、ディアワォルも、其中に來りて主の前に立
---------------------[聖大水曜日 晩課 1046頁]---------------------
てり。主はディアワォルに謂へり、爾何處より來れる。ディアワォル主に答へて曰へり、天下を過ぎ、全地を巡りて來れり。主はディアワォルに謂へり、爾意を用いて我が僕イオフを觀しか、蓋地に在る者の中に彼の若きはあらず、無玷、篤實、敬虔にして、凡の惡に遠ざかれる人なり、爾故なくして其所有を滅さんことを慫めたれども、彼尚其惡なきを守れり。ディアワォル答へて主に謂へり、皮を以て皮に代ふ、人は其一切の所有を以て其生命に代へん、然れども爾の手を伸べて彼の骨と肉とに觸れよ、其時彼豈爾を祝讃せんや。主はディアワォルに謂へり、視よ、我彼を爾に任す、唯彼の生命を存せよ。ディアワォル主の前より出でて、瘡痍を以てイオフを撃ち、跖より頂に至れり。イオフ瓦の片を取りて、其膿を掻き、邑外に塵芥の中に坐せり。久しくして後、其妻彼に謂へり、爾忍耐して何の時に至らんか、爾は我尚暫く忍びて、我が救を待たんと言う。視よ、爾の記憶は地に滅び、爾は爾の子女、我が腹の病我が劬勞たる者は滅びたり我空しく疾みて、勞せり。爾は蟲の臭穢の中に坐して、露宿に夜を送り、我は無宿の傭僱にして、此より彼に、家より家に移りて、日の入るを待つ、我が苦勞、今我を圍む病より息はん爲なり。寧神を謗りて死せよ。彼は目を注ぎて之に謂えり、爾は何ぞ無知なる婦の如く言ひたる。我等既に善き事を主の手より受けたれば、惡しき事を忍ばざらんや。凡そイオフに及
---------------------[聖大水曜日 晩課 1047頁]---------------------
びし此等の事に於て彼は口を以て主の前に聊も罪を犯さず、神に對ひて無知なる事を言はざりき。
次に「願はくは我が禱は香爐の香の如く」福音經はマトフェイ百八端。其他先備聖體禮儀の式。尊貴なる聖錫の遷移の後に三大拜。是より聖堂に於ては聖エフレムの祝文を其拜と共に用井るを止む。私室に於ては金曜日まて之を行ふ。
~~~~~~~~
聖大水曜日の晩堂小課
其中に大木曜日の三歌頌を歌ふ、アンドレイ師の作。第六調。
第四歌頌
イルモス、主よ、預言者は爾の降臨の事を聞き、爾が童貞女より生れ、人人に顯れんと欲するを懼れて曰へり、我爾の風聲を聞きて懼れたり、主よ、光榮は爾の力に歸す。
---------------------[聖大水曜日 晩堂小課 1048頁]---------------------
敷き飾りたる樓は爾造物主及び爾と共に機密に與る者を受けたり、爾彼處に「パスハ」を終へ、彼處に機密を立て給へり。蓋彼處に今爾より遣されたる二人の門徒に因りて、爾の爲に「パスハ」は備へられたり。
一切を知る者は使徒等に向ひて、某に往けと言ふ。樓として心を備へ、晩餐として敬虔を備へて、忠信に主を受けんことを能する者は福なり。
狂愚なるイウダよ、爾の習は貪、爾の質は無知なり、爾惟金匣にのみ己を委ねて、聊も憐憫に傾かざりき、乃爾の頑なる心を閉ぢて、惟一慈憐の者を賣り付せり。
殺神者の目的と貪財者の賣付とは相協へり、彼は己を兇殺の爲に備へ、此は銀を獲たり、蓋其時預め悔の縊死を以て惡しく命を失はんことを定めたり。』
僞詐なるイウダよ、爾の接吻は詭譎を充て、慶べよの言は劍を含む、爾舌にては合同を表す言を言ひ、記號にては分離を示す、蓋惡謀を以て恩者を不法の者に付さんことを務む。
詐を懐きて趨り附きたるイウダよ、爾は接吻して賣り、慶べよと言ひて羞ぢず。至りて禍なる者よ、誰か惡みて接吻し、誰か愛して價を以て賣る、接吻は爾が恥を知らざる惡心の圖を表す。
---------------------[聖大水曜日 晩堂小課 1049頁]---------------------
光榮、我爾性に於て分れず、位に於て混合せざる、三にして一なる神性を同王同座たる者として崇め讃め、爾に宏なる歌、至高きに三たび歌わるる者を獻ず。
今も、生神女讚詞、神の母よ、爾の懐孕は言に超え、産は性に超ゆ、彼は種なくして聖神に藉り、此は性の法に與らず、蓋不朽にして凡ての産の性に超ゆ、生るる者は神なればなり。
坐誦讚詞、第四調。
主宰よ、爾は門徒と偕に食ひて、秘密に爾の至聖なる屠宰を示し給へり、我等爾の尊き苦を敬ふ者は此に縁りて朽壞を免れたり。
第八歌頌
イルモス、凡そ呼吸ある者と造物は、天軍の讃榮し、ヘルワィムとセラフィムの戰く者を歌ひ、崇め讃めて、萬世に讃め揚げよ。
シナイに於て律法の石板を録しし者は律法の命を成就して影なる古の「パスハ」を食ひたれども、是れ機密にして生活を施す「バスハ」と爲れり。
ハリストス救世主よ爾は古世より隠されたる智慧を奥密に司りて、晩餐の時に之を倶に在る衆使徒に顯し給へり、捧神者は之を諸敎會に傳へたり。』
---------------------[聖大水曜日 晩堂小課 1050頁]---------------------
爾等の中の一人は此の夜我をエウレイ人に賣りて、詐を以て付さん、ハリストスは之を呼びて友を驚かせり、其時彼等訝りて互に相問へり。
富める者は我等の爲に謙りて、晩餐より起ち、手巾を取りて、之を帯にし、首を俯して、門徒等及び賣主者の足を濯へり。
イイススよ、智慧に超え、知識に究め難き爾の高きには、孰か驚かざらん、蓋爾萬有の造成主は塵土の前に立ちて、其足を濯ひ、手巾を以て之を拭へり。
主の愛せし門徒は胷に就きて曰へり、爾を賣る者は誰ぞ、ハリストスは彼に言ふ、今手を皿に人れし者是なり。
門徒は餅を受けて後に離れ、賣付を計る者はイウデヤ人に趨りて、不法の者に言ふ、爾等我に幾何を與へんと欲するか、我彼を爾等に付さん。
我等主なる父と子と聖神とを崇め讃めん。
性に於て惟一なる神を尊み、明に各異なれども、相異る者にあらざる三の位を歌う、蓋三の位に於て惟一の神性なり、是れ父、子、聖神なり。
今も、生神女讚詞、イイスス我等の救世主よ、我等を兇惡者の迷惑及び誘惑より脱れしめ給へ、絶えず祈禱する生神女を納れ給へ、蓋彼は母にして、祈りて爾を和ぐるを能す。
---------------------[聖大水曜日 晩堂小課 1051頁]---------------------
我等主を讃め、崇め、伏し拜みて、世世に歌ひ讃めん。
復イルモス、「凡そ呼吸ある者と造物は」。及び拜。
第九歌頌
イルモス、種なき胎の産は言ひ難し、夫を知らざる母の果は朽ちず、神を生む産は天性を改むればなり。故に我等萬族爾を神の聘女なる母として、正しく崇め讃む。
人を愛する主よ、爾は己の門徒と共に晩餐に席坐する時、爾が人性を取ることの大なる祕密を顯して曰へり、信を以て生命の餅を食ひ、神聖なる脅の刺さるるに由りて流されし血をも飮め。
ハリストスが「パスハ」を行ひし樓は天の幕と現れたり。彼處に無血の晩餐及び靈智の奉事は行はれたり、彼處に行はれし機密の案は無形の祭壇なり。』
ハリストスは大にして最尊き「パスハ」なり、餅の如く食はれ、羔の如く屠られたり、蓋彼は我等の爲に祭として獻げられたり。我等皆敬虔を懐きて、機密に其體其血を領く。
天の餅たる者は餅を取り、祝福して、彼を生みし父に感謝し、爵をも門徒に予へて呼べり、取りて食へ、是れ我の體、及び不朽の生命の血なり。
---------------------[聖大水曜日 晩堂小課 1052頁]---------------------
「アミン」と言ひて、葡萄の樹は枝に、ハリストス眞實たる者は使徒等に言へり、今より後我復葡萄よりする飮物を飮まずして、吾が父の光榮の中に、爾我等の嗣と偕に、新しき物を飮むに至らん。
不法なるイウダよ、爾は銀三十の爲に主を賣りて、晩餐の機密或は尊き濯を思はず。噫嘻如何に深く爾陷りたる、全く光を失ひ縊を招けり。
不朽の餅を受けし手を、銀を受けん爲に伸べ、ハリストスの體血を受けし口を、詐を以て接吻の爲に進めたり。唯爾は禍なる哉、ハリストスの言ひしが如し。』
神聖にして天の餅たるハリストスは世界の爲に筵を設けたり。故にハリストスを愛する者は來りて、獻ぜらるる「パスハ」、我等の中に奥密に行はるる者を、泥の口なれども、潔き心を以て忠信に受けん。
光榮、我等父を讃め揚げ、子を崇め歌ひ、信を以て聖神を尊み拜み、分れざる三者、性に於て惟一なる者、一光と三光、三一の生命、四極に生命を施して之を照す者を崇め讃めん。
今も、生神女讚詞、爾は獨天の宮及び永貞童女たる聘女と現れたり、蓋神を孕みて、爾より身を取りし者を變易なく生み給へり。故に我等萬世爾を神の聘女なる母として、正しく崇め讃む。
---------------------[聖大水曜日 晩堂小課 1053頁]---------------------
復イルモス、「種なき胎の産は言ひ難し」。
其他小晩課の式常例の如し、并に發放詞。三拜を爲して、司祭の祝文の後に私室に歸る。
知るべし。此の聖日よりフォマの週間に至るまで、夜半課を聖堂に歌はず。
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