死者祈祷礼儀


八調経の金曜日の項に書かれている。金曜日晩課の後、すなわちスボタに続く1日は死者の記憶が行われる日で、これが省略されて独立したのがパニヒダと思われる。現行のパニヒダは明治初期の楽譜に書かれた翻訳文を用いているので、ここに記載されているものと翻訳が異なる。ほかの祈祷書と同様、ニコライ大主教は何度も改訂を重ねたが、実際に用いられる楽譜には反映されなかったのだろう。

金曜日晩課の発放詞の後、司祭は祭袍を、輔祭は祭衣を衣、香炉及び乳香を執りて、前院に出づ、幇堂者燭台を持して前行す、衆彼等に随ふ。前院には台上に糖飯の置けるあり、司祭我等の神は祝讃せらる云云と誦して、糖飯の四周に炉儀を行ふ。誦経第九十聖詠至上者の覆の下に居る者は云云を誦す。(若し晩課或は早課の後にあらずして、他の時に行はば、始は常例の如し、即ち聖三祝文、「天に在す」の後に司祭高声、「蓋国及び権能」、次に主憐めよ、十二次、光栄、今も、来れ、我等の王神に叩拝せん、三次、後第九十聖詠。)畢りて後光栄、今も、「アリルイヤ」三次、並びに死者の聯祷。

我等安和にして主に祈らん。

詠隊、主憐めよ。

上より降る安和と我等が霊の救の為に主に祈らん。

福たる記憶に於て移りし者の諸罪の赦の為に主に祈らん。

常に記憶せらるる神の諸僕()の安息と、平穏と、福たる記憶の為に主に祈らん。

彼等に凡そ自由と不自由との罪の赦さるるが為に主に祈らん。

後等が定罪せられずして光栄の主の畏るべき宝座の前に立つが為に主に祈らん。

哭き哀しみてハリストスより尉藉を受くるを望む者の樽に主に祈らん。

彼等が.凡その病と悲しみと、嘆きより釋かれて、神の光の輝く處に入れらるるが為に主に祷らん。

主我が神が彼等の霊を光る處、茂き草場、安息の處、衆義人の居る處に入るるが為に主に祷らん。

彼等がアウラアムと、イサアクと、イアコフとの懐に算へ置かるるが為に主に祷らん。

我等諸々の憂愁と、忿怒と、危難とを免るるが為に主に祷らん。

神よ、爾の恩寵を以て我等を佑け救ひ憐み護れよ。

彼等及び我等衆人の為に神の憐と、天国と諸罪の赦とを求めて、悉くの我等の生命を以てハリストス神に委託せん。

詠隊、主爾に。

司祭高声、蓋爾は、ハリストス我等の神よ、寝りし爾の諸僕、常に記憶せらるる斯の聖堂の建立者、我等の諸父及び兄弟、此の處と諸方とに葬られたる正教のハリスティアニン等の復活と、生命と、安息なり。我等光栄を爾と、爾の無原の父と、至聖至善にして生を施す爾の神とに献ず、今も何時も世世に、「アミン」。

次ぎて「アリルイヤ」三次、第八調。句を誦すること左の如し。

第一句、主よ、爾が選び近づけし者は福なり。

第二句、彼等の記憶は世世に在らん。

第三句、彼等の霊は福に居らん。

    次に讃詞、第八調。

惟一の造成主、深き智慧と仁慈とを以て萬事を治め、衆人に益ある事を賜ふ主よ、爾の諸僕の霊を安ぜしめ給へ、蓋彼等は爾造物主と造成主と我が神に恃頼を負はせたればなり。二次。

    光栄、今も、生神女讃詞

生神女、聘女ならぬ聘女、信者の救よ、我等は爾を垣牆と港及び爾が生みし神の前に嘉く納れらるる祈祷者として有つ。

其後第十七「カフィズマ」、「道にきずなくして」、附唱、主よ、爾の諸僕の霊を憶ひ給へ、第二調に依りて歌ふ。左列詠隊第二句を歌ふ。斯く両詠隊交互に相続きて以下の句を歌ふ。「カフィズマ」を二段に分つ、第一段の後には光栄今もを誦せずして、直ちに左の句を誦す。

若し爾の律法我の慰とならざりしならば、我は我が禍の中に亡びしならん。我永く爾の命を忘れざらん、爾此を以て我を生かせばなり。三次。

次に司祭(輔祭あらば輔祭)先に寝りし者の為に聯祷を誦す。

我等復又安和にして主に祷らん。

詠隊、主憐めよ。

又寝りし神の諸僕()の安息の為、及び彼等に几そ自由と不自由との罪の赦されんが為に祷る。

詠隊、主憐めよ。

主神が彼等の霊を諸義人の安する所に入れ給はんことを祷る。

詠隊、主憐めよ。

彼等に神の憐みと天国と諸罪の赦とを賜はんことをハリストス我が死せざる王及び神に求む。  詠隊、主賜へよ。

輔祭、主に祷らん。 詠隊、主憐めよ。四十次

   司祭祝文黙誦す。

諸々の霊神と諸々の肉体との神、死を滅し、悪魔を虚しくし、爾の世界に生命を賜ひし主よ、爾親から寝りし爾の諸僕()の霊を光る諸、茂き草場、平安の處、病と悲と歎息との遠ざかりし處に安息せしめ、善にして人を愛する神なるに因りて、彼等が或は言、或は行、或は思にて犯しし悉くの罪を赦し給へ。蓋人一も生きて罪を行はざる者なし、唯爾は罪なし、爾の義は永遠の義、爾の言は真実なり。

高声、蓋爾はハリストス我等の神よ、寝りし爾の諸僕云云

両詠隊第二段の諸句を交互に歌ふ、附唱、主よ、爾の諸僕の霊を安ぜしめ給へ。終りて後に句、願はくは我が霊生きて云云終に至るまで歌ふこと三次。

次に安息の為の諸讃詞、第五調に依りて歌ふ。

附唱、主よ、爾は崇め讃めらる、爾の誡めを我に訓へ給へ。

聖人の群は生命の泉と天堂の門とを得たり、願はくは我も痛悔を以て道を得んことを。我は亡びし羊なり、救世主よ、我を呼び返して救ひ給へ。

主よ、爾は崇め讃めらる、爾の誡めを我に訓へ給へ。

神の羔を伝へ、己も羔の如く屠られて、老いざる永久の生命に移りし聖なる致命者よ、我等に罪債の赦を賜はんことを切に祈り給へ。

主よ、爾は崇め讃めらる、爾の誡めを我に訓へ給へ。

狭く苦しき路を過りて、生ける中、十字架を軛の如く負ひ、信じて我に従ひし衆人よ、来りて、爾等の為に備へたる褒賞と天の詠冠とを楽しめよ。

主よ、爾は崇め讃めらる、爾の誡めを我に訓へ給へ。

我は罪悪の創を負へども、爾が言ひ難き光栄の像なり。主宰よ、爾の造りし者に憐みを垂れ、爾の恵みにて浄め、切に望める生国を我に與へて、我を復楽園に住む者と為し給へ。

主よ、爾は崇め讃めらる、爾の誡めを我に訓へ給へ。

昔我を無より造りて、爾が神たる像にて飾り、戒めを犯すに因りて復我を我が出でし地に帰しし主よ、我を神の肖に適ふ位に升せ、古えの麗しきを以て我を改め給へ。

主よ、爾は崇め讃めらる、爾の誡めを我に訓へ給へ。

神よ、爾の諸僕を安ぜしめて、聖人の群と義人が日の如く光れる楽園に入れ給へ。爾の眠りし諸僕を安ぜしめて、其悉くの過ちを思ふ勿れ。

   光栄、聖三者讃詞。

一の神性の三の光を謹み歌ひて呼ぶ、無原の父と、同無原の子と、聖神よ、爾は聖なり。我等信を以て爾に勤むる者を照して、永遠の火を免れしめ給へ。

   今も、生神女讃詞。

衆人の救の為に身にて神を生みし潔き者よ、慶べ、人の族は爾に因りて救を得たり。潔くして讃美たる生神女よ、願はくは我等爾に因りて楽園を得んことを。

次ぎて「アリルイヤ」三次。其の後聯祷、司祭寝りし者を記憶す、上に「ネポロチニ」の中間に記ししが如し。若し「ネポロチニ」を歌はずば、其時「アリルイヤ」の後に讃詞「惟一の造成主」及び其生神女讃詞を歌ひて、直に「主よ、爾は崇め讃めらる」、並びに讃詞「聖人の群は」、其他。後に司祭寝りし者を記憶す、上に示ししが如し。

   高声の後に死者の坐誦讃詞、第五調。

我が救世主よ、爾の諸僕を義人等と偕に安ぜしめて、録しし如く、之を爾の庭に居らしめ給へ。爾の仁慈なるに因りて、其自由と自由ならざる、其の凡そ知ると知らざる罪を恕し給へ、爾は人を愛する主なればなり。

   光栄、今も、生神女讃詞。

童貞女より世界に輝き、彼を以て光の諸子を顕ししハリストス神よ、我等を憐み給へ。

次ぎて第五十聖詠、「神よ、爾の大なる憐みに因りて」。

其の後八調経の中にある本調の死者の規程、四句を立つ。第三歌頌の後にイルモス及び聯祷、司祭は寝りし者を記憶す、上にネポロチニの中間に記ししが如し。高声、「蓋爾は、ハリストス我等の神よ」。

   次ぎて坐誦讃詞、第六調。

誠に物皆虚し、生命は影なり、夢なり、凡そ地に生れし者は徒に忙し、聖書に云ひしが如く、我等全地を獲るも遂に墓に入らん、彼處には諸王と貧しき者と共に在り、故にハリストス神よ、世を逝りし爾の諸僕を安ぜしめ給へ、爾は人を愛する主なればなり。

    光栄、今も、生神女讃詞。

至聖なる生神女よ、我が生ける中我を棄つる勿れ、我を人の転達に委ぬる勿れ、自ら我を護りて救ひ給へ。

第六歌頌の後にイルモス及び聯祷、司祭寝りし者を記憶す、前に示ししが如し。高声、「蓋爾は、ハリストス我等の神よ」。

    次ぎて小讃詞、第八調。

ハリストスよ、爾が諸僕の霊を諸聖人と偕に、疾も悲しみも歎きもなくして、終りなき生命のある處に安ぜしめ給へ。

    同讃詞

人を造りし主よ、爾は独り死せざる者なり、我等地の者は、土より造られて、復土に逝かん、爾我を造りし主の命じて我に言ひしが如し、爾土にして土に帰らんと。我等人々皆彼處に往き、墓の上に哭きて歌ひて云はん、アリルイヤ、アリルイヤ、アリルイヤ。

第九歌頌の後に司祭誦す、生神女及び光の母を歌を以て讃め揚げん。詠隊、主よ、諸神と義人等の霊とは爾を崇め讃めん。並びに第九歌誦のイルモスを歌ふ。

次に聖三祝文、「天に在す」の後に左の讃詞を歌ふ、第四調。

人を愛する救世主よ、死せし義人等の霊と偕に爾の諸僕の霊を安ぜしめて、彼等を爾に在る福楽の生命に護り給へ。

   讃詞、同調。

主よ、爾の諸聖人の安息する處に爾の諸僕の霊を安ぜしめ給へ、爾独り人を愛する主なればなり。

    光栄

爾は地獄に降りて繋がれし者の鎖を釋きたる神なり、親ら爾の諸僕の霊をも安ぜしめ給へ。

   今も、生神女讃詞。

独の潔くきずなき童貞女、種なくして神を生みし者よ、彼等の霊の救はれんことを祈り給へ。

次に司祭(輔祭あらば輔祭)聯祷を誦す。

神よ、爾の大なる憐みに因りて我等を憐めよ、爾に祷る、聞き納れて憐めよ。

詠隊、主隣めよ。三次。

又寝りし神の諸僕()の霊の安息の為、及び彼等に凡そ自由と不自由との罪の赦されんが為に祷る。 詠隊、主憐めよ。三次。

主神が彼等の霊を諸義人の安息する所に入れ給はんことを祷る。

詠隊、主憐めよ、三次。

彼等に神の憐みと天国と諸罪の赦とを賜はんことをハリストス我が死せざる王及び神に求む。

詠隊、主賜へよ。

輔祭、主に祷らん。

司祭祝文、「諸々の霊神と諸同の肉体との神」。斯の中に古世より死せし吾が諸父兄弟、此處と諸方とに葬られたる正数のハリスティアニン等を記憶す。高声、「蓋爾は、ハリストス我等の神よ」。

次ぎて司祭或は輔祭誦す、叡智。詠隊、「ヘルワィムより尊く」。司祭、ハリストス神我等の恃みよ、光栄は爾に帰す、光栄は爾に帰す。詠隊、光栄、今も、主憐めよ、三次、福を降せ。

   司祭発放詞を誦す。

死より復活せしハリストス我等の真の神は、其の浄なる母、光栄にして讃美たる聖使徒、克肖捧神なる吾が諸神父及び諸聖人の祈祷に因りて、我等に別れし其諸僕の霊を諸義人の住所に入れ、アウラアムの懐に安ぜしめ、諸義人の列に加へ、及び我等を憐み給はん、善にして人を愛する主なればなり。

発放詞の後に輔祭高声にして誦す。

主よ、寝りし爾の諸僕()に其の福たる寝りに永遠の安息を與へて、彼等に永遠の記憶を為し給へ。

詠隊歌ふ、永遠の記憶。三次。

輔祭のなき處には詠隊歌ふ、寝りし神の諸僕()に永遠の記憶。

斯の祈祷礼儀は毎金曜日に行ふべし、其時寝りし我が諸父兄弟の記憶の為に糖飯を備ふ。