謝罪の晩課の音楽付け資料 チャントの音楽付けの注意点参照のこと
まず、歌詞になる詩の構造を考える。生神女讚詞は「光栄は」「今も」で区切られた4節の詩によって構成される。、それぞれ独立して同じメロディ・パターンがあてはめられる。第1節と第4節は4句に、第2節と第3節は3句に分けられる。
第2節と第3節は全く同じ構造で、@「○○よ、」と呼びかけ、A願いごとをのべ、B「・・・だからである」と理由を述べる。スラブ語ではA句目のあとに「:」が書かれる。
[第1節] 生神童貞女よ、慶べよ、/恩寵に満たさるるマリヤよ、主は爾と偕にす、/爾は女の中にて讃美たり、爾の胎のみ果も讃美たり、/爾は我等の霊を救ふ主を生みたればなり。
光栄は父と子と聖神°に帰す。
[第2節] ハリストスの授洗者よ、/我等衆人を記憶して、我が不法より救はるるを得しめ給へ、/我等の為に祈祷する恩寵は爾に賜はりたればなり。
今も何時も世世に「アミン」。
[第3節] 聖使徒と諸聖人よ、/我等の為に祈りて、我等に禍いと憂いより救はるるを得しめ給へ、/爾等は救世主の前に吾が熱心の中保者なればなり。
[第4節] 生神女よ、我等爾が慈憐のもと下に趨り附く、/危き時に於て我等の祈祷を斥くる勿れ、/独り浄く、独り崇め讃めらるる者よ、/我等を諸の禍いより救ひ給へ。
他にも色々な伝統チャントのメロディがあると思うが、ここではSputnik Psalmoschikaを参考にして音楽付けする。同じメロディを元にした他の資料(スラブ語や英語)があれば、それも参考にする。
Sputnik Psalmschikaにはモスコフスキイ・ナピエフ(モスクワ風のチャント)によるチャントが収録されていた。これをパターン化すると以下のようになる。Aのメロディを何度かくり返し、最後のフレーズのみBのメロディを用いる。斎であることから、メロディの変化は少ない。Aのメロディは基本的にレ・ミ・ファ・ソの四音のみ、Bのメロディになって初めてソの音が表れる。調の表示は4調だが通常(オビホード)の4調トロパリとは異なる。
第1節を例に取る。まず詩を意味に従ってフレーズに区切る。
@生神童貞女よ、慶べよ、/A恩寵に満たさるるマリヤよ、主は爾と偕にす、/B爾は女の中にて讃美たり、爾の胎のみ果も讃美たり、/C爾は我等の霊を救ふ主を生みたればなり。
今回は斎なのでメロディの変化が少なく特徴がでにくいが、チャントでは、フレーズの中で大切なことばに強調されたメロディがつけられるので、どのことばが重要語句か見定める。また、句相互の文脈関係も考える。
前半@Aでは天使ガヴリイルが生神女に受胎を告げたことば、Bではエリザベタの祝福のことばが並べて述べられ、Cでは、結論として、なぜ幸いなのかその理由が述べられるので、少し雰囲気が異なる。
各語のイントネーションに注意して微調整しながら、@からBまではAのメロディを繰り返しあてはめ、最後のCはBのメロディにあてはめる。@とAは1フレーズにすることも可能だろう。
また、誰でも歌えるように、音の「飛び」はできるだけ避ける。
聖歌者は、詩と音楽両方のフレーズの構成を理解し、音楽付けすることが求められる。
例1では冒頭の@とAそれぞれにAのパターンをあてはめてみた。
例2では、@とAをひとつのフレーズとして考え、天使のことば、エリザベタの讃美、結論という三句と考えた。また、「慶べよ」「マリヤよ」という天使の呼びかけの気分を配慮して上がり調子のメロディをあてはめた。
これらはあくまで一例なので、他にももっといい音楽付けがあるだろう。
ただ、斎なので、祭日や主日のようにあまり動きの多い(メリスマティク)なメロディは避ける方がいいだろう。
参考楽譜