奉神礼のきまり−−ティピコンと奉事規則
ティピコンって何?
私たちが実際に、ある日の晩課の祈りを行うとします。司祭が使う奉事経の他に、時課経、八調経(この日は何調の何曜日にあたるか)、月課経(この日は何月何日だから、どんな聖人が記憶されるか)、場合によっては連接歌集から必要な歌をひっぱってきます。そのときに、どういう組み合わせで祈祷を構成するか、ということは祈祷書の注や巻末の資料にも書かれていますが、ティピコン(ウスタフ)とよばれる奉事規則書も参照します。
ティピコンはもともと、修道院のさまざまな「きまり」や「習慣」を書いたもので、奉神礼のやり方以外にも、斎の仕方とか、修道の仕方などまで書かれています。また、聖堂の構造、祭服、鐘のつき方、祈りの中の聖職者の細かな動き、十字行などの行進の仕方などが書かれています。
ロシアではティピコンの他に、その解説書であるナスタリナヤ・クニーガ(ブルガコフなど、通称机上本(英訳))や、教会暦なども毎年のカレンダーに従って奉事の組み合わせを記載した、ボゴスルージェヴニエ・ウカザーニア(ロシア語)も参考にします。
日本ではティピコンはまだ訳されていません。このサイトでは1966年にモスクワ総主教アレクセイ一世の祝福の本に英訳されたThe Abridged
Typicon (ティーホン修道院)を日本語訳して提供しています。→ティピコン略
ティピコンの歴史略、ロシア系のティピコンとギリシア系のティピコン
ティピコンは長い教会(や修道院)のさまざまな規則の集大成ですから、一枚岩的なものではありません。今の正教会の奉神礼は修道院のやりかたと街の教会のやり方、パレスティナのやり方とコンスタンティノープルのやり方がが歴史の中で複雑に混じり合って統合されてきたものです。
ロシア系のティピコンはパレスティナの聖サワ修道院のティピコンと言われます。それに対して、ギリシアの教会のやり方はコンスタンティノープル・ティピコンと言われます。大きな違いは、土曜日の晩に徹夜祷として晩課、早課、一時課をまとめてやるのがロシア系、早課は日曜の朝にやるのがギリシア系、あるいは、日曜日の聖体礼儀のアンティフォンに102、145聖詠と真福詞を歌うのがロシア系、選ばれた聖詠と附唱(救世主や、生神女の祈祷によって)を歌うのがギリシア系などと言われます。全体から見ると共通点の方が多いでしょう。
しかし一口にロシア系といっても修道院ごと教会ごとに細かな違いがありますので、一字一句守らなければ間違いであるというようなキチキチしたものではありません。実際、ティピコン通りにやることは街の教会ではまず不可能で、実情に合わせて省略されたり、変えられたりしています。1913年にキエフ神学校で聖サワ修道院のティピコン通りに徹夜祷を行おうという試みがありましたが、準備に1ヶ月、実施に6時から夜中の1時半までかかって、二度と試みられなかったそうです。
まだ幼い日本教会のためにニコライ大主教もさまざまな省略を行いました。「大斎第1週奉事式略」の緒言にも日本の状況に応じて省略したことが書かれています。主日徹夜祷も水色の楽譜ではかなりの省略が行われ、かえって全体がわかりにくくなっている面もあります。また19世紀のロシアでも不適当な省略が習慣化していて、それがそのまま日本に伝えられたものもあります(第2アンティフォンの145聖詠の省略、第3アンティフォンの真福詞のスティヒラの省略、アリルイヤの句の省略など)。
ニコライ大主教が永眠されて100年、これからの奉神礼を充実させていくためには、ティピコンを参照することも必要と思います。そのための一助となればさいわいです。