1、祭衣(ステハリ)

 至聖所で務めをなす神品と教衆(副輔祭、諦経者、堂役)は、聖務に参与する際には必ず定められた衣服を身につける。この衣服を祭服とよぶ。

 祭服は、本来人間には近づき得ない神の奥妙な働きに参与することができるよう、特別な恩寵が聖務者を被っていることを、眼に見える形に現したものである。祭服はたんなる装飾を目的に身にまとうのではなく、会衆に対しては、神・聖神(聖霊)の不可視な働きが実在することを知らしめるため、着る人にとっては、自分が奉事にたずさわるために特別な神恩と守護をいただいていることを、自覚させるためのものであるといえる。祭服のそれぞれの部分は、着る時に必ずその目的に見合った祈祷文がとなえられるが、その内容は、各々の部分にどのような形で恩寵が作用しているのかを、よく示している。

 祭衣(ステハリ)は祭服の中で最初に身につけるものであり、堂役から主教まで、至聖所に務める人なら誰でも例外なくこれを着用しなければならない。ステハリとは「列、線」を意味するギリシャ語の「スティフォス」が語源の名称で、ここから神の恩寵がまっすぐにその人に注いでいることを意味する。初代は純白もしくは銀系の着物が多く用いられ、聖務者の潔白をあらわしていた。しかし4世紀に正教がローマ帝国の国教となり、その後の年間奉事の充実化と拡大に伴い、各祭日・祭期の意味を表すのに適した色彩のものが使い分けられるようになる。今日一般的なものは.金系、白系、赤系、青系、黒系、緑系、紫系、などで、場合によっては橙系やベージュ系が使用されることもある。教会暦に従って、その時期に適切な色彩のものを着分けるようになっている。中でも大斎期に使用される黒系や、復活大祭期に用いられる赤系は日本でも定着しており、なじみの深いものとなっている。ステハリを身につけるには、着用に先立ってまず、主教、あるいは司祭から祝福を受け、高座に向って三度叩拝し、そのつど「神よ、我罪人を浄めて我を憐れみ給え」と黙誦する。ついで「我が霊は主の為に喜ばん。蓋彼は我を著するに、救いの衣をもってし、我を服するに楽しみの衣をもってせり。我に栄冠を戴かせしこと花婿の如く、我を美しく装いしこと花嫁の如し。」との祈祷を献じ、着る。

 これは、至聖所に務める者が自分自身で身を潔めるのはもちろんだが、神の恩寵によっても潔められて、はじめて聖務にのぞめることを意味している。ステハリは、これを着用する人が、神意を伝える神使の役目を担っていることを象るもので、無血の奉事によって人々に生命をもたらす神の意志に、神使のようにくもりのない心で自らも同意していることの表明である。その人の動作や祈りを通して、この世で神の光栄が遣わされるという、大いなる喜びと賜が与えられたことの具体化であるといえよう。

 なお、司祭と主教が身につけるステハリは薄目で、袖がひもで巻いて固定するようになっている。これは特に、祭袍下着(ポドリスニク)とも呼ばれている。