8、祭袍(フェロン)
祭服はどこに装着するものであっても、歴史的過程をさかのぼってゆけば、イイスス・ハリストスにたどりつく。祭服について述べる上で歴史的背景が非常に重要となるのも、それが啓示に属するものだからである。祭服も教会の聖伝を担うものである。今回紹介する祭袍(フェロン)もその例外ではない。
フェロンは司祭品が一番外側に身につける、袖と縫い目のない外衣である。たいていの祭服の部分(パーツ)は、聖務者が奉神礼を粗相なくすみやかに行う為の工夫が凝らされている。ところが、フェロンは逆に身動きを抑制するかのように、司祭の上半身を包む形で装着される。それはこの祭服が、機密執行者がこの世で担う重荷を象っていることに関係している。
フェロンの原型は、主イイススがポンティ・ピラトから有罪判決を受けた際に着せられた「鮮やかな色の上着」を象ったものであった。この上着を着せられたイイススは頬を打たれ「ユダヤ人の王慶べよ」と、嘲笑された(イオ19:1-3、マト27:28-30他)。旧約時代から、罪に支配されたこの世で義人といわれる人々が背負う苦難の重さは、聖書が示唆する大きなテーマであった。旧約聖書中の「イオフ記」はこれを中心的テーマとして扱ったものだが、旧約時代はこうした義人たちの苦難に対する明確な回答が出されるに至っていない。しかしこの義人達の苦難は、今や籍身した神自らがこの世で苦難を背負われた事実と、その結果もたらされた復活によって明確化されている。主とともに背負う苦難は、最早神の国で光栄が約束される前提なのである。この事は、フェロンが重荷の象りであるにもかかわらず、身に着ける時の祝文が歓喜の明示となっていることからもうかがい知れる:
主や、爾の司祭等は義を衣、爾の諸聖者は常に悦ばん、今も何時も世々に、アミン。(フェロン祭袍を着用する時の祝文)
主が背負われた重荷=十字架をともに分かち合う事は、信仰者の誉れである。このようにフェロンは、機密執行者がこの世で義人・諸聖人、そして主イイススとともに十字架を分かち合っている事の現われなのである。
尚、フェロンは元々司祭だけでなく主教品も身につける祭服であった。これが現在のサッコスの前身である。このことは、フェロンとサッコスを着用する時の祝文が共通であることからもうかがい知れる。サッコスは、現在の形になるまでの歴史的変遷過程が非常に複雑である。